権力と陰謀 原作とテレビドラマ

 アメリカでDVDが発売されているらしいので、注文してみた。無事届くかどうか。


 原作とテレビの違い、それからドラマと現実の違いについて、書こう書こうと思ってなかなか進まないので、まずは前者についてメモ書き。


(1)原作はジョン・アーリックマン『ザ・カンパニー The Campany』であり、1976年出版。邦語訳は新庄哲夫によるものが角川書店「海外ベストセラー・シリーズ」で1978年。


(2)原作とテレビドラマが扱う時間的範囲は同一(アンダーソン大統領再選不出馬演説からウォーターゲート事件をモデルにした侵入事件まで)だが、重点等が異なる。
 原作は大統領選でのモンクトン勝利までで全体の半分以上(邦語訳で366頁中200頁)を占める。その中で、ウィリアム・アーサー・カリー、アンダーソン、モンクトンの関係、CIAと長官ビル・マーチンの立場、プリミュラ・リポート(プライムラ報告書)の位置づけなどの背景が細かく説明されている。そして、後半は、モンクトン政権下でのホワイトハウスビル・マーチンの暗闘に焦点があてられ、そこにエルマー・モース率いるFBIとの軋轢、大統領補佐官カール・テスラーの行動などが絡んでくる。最後は、キャンプ・デイヴィッドでのモンクトンとマーチンの取引の場面、そしてエピローグとして、大使となったマーチンが公邸で侵入事件のニュースを知る場面で物語が終わる。
 テレビでは、第1話でアンダーソン大統領再選不出馬からモンクトンの新大統領選出までが描かれ、第2話以降では、マーチンの苦闘だけでなく、モンクトン政権内部の腐敗の様子、とりわけフラハティによるスタッフ支配、再選委員会等による違法行為の数々、それらと絡めて若手スタッフ(ハンク・フェリス、アダム・ガーディナー、ロジャー・キャッスル)を巡るドラマが描かれている。反戦運動への強権的な対応といった要素も見逃せない。


(3)原作に比べるとテレビドラマは群像劇の色が濃く、主役のはずのマーチンの出番は減っている。また、原作ではマーチンの行動の動機が保身という利己的なものを中心として描かれるのに対して、テレビドラマでは、モンクトンとその政権の腐敗が強調され、またマーチンが東南アジアでの戦争に関して部下からブリーフィングを受ける際に、戦地の民衆の悲惨な現状をフィルムで観ながら複雑な表情を浮かべる場面などが挿入されることで、マーチンに若干の良心的な動機があるかのようにイメージさせる構成になっている。 ただ、テレビドラマでもマーチンが善玉でモンクトンが悪玉という単純な図式が提示されているわけではない。


(4)原作ではマーチンは妻リンダと離婚し、サリーとともにジャマイカに赴任している。テレビドラマでは、マーチンは政治的な情勢の推移とそこからくる緊張、サリーの行動の裏への疑いなどから、サリーと破局し、第5話で妻リンダとよりを戻している。原作、テレビドラマのいずれにおいても、こうした女性関係でのスキャンダルがマーチンのモンクトンへの心証を悪化させる要因となっている。
 なお、原作ではマーチンがジャマイカに赴任する際に、CIAでの補佐官サイモン・キャペルを帯同するが、テレビドラマではそうした描写はない。


(5)原作とテレビドラマでは、ホワイトハウスがCIA及び長官ビル・マーチンに不信の目を向けるのに対して、CIAがホワイトハウスの違法行為の証拠を握っていく、という骨組みは同一である。しかし、それに関係する細部は異なる。例えば・・・

・原作の「プライムラ報告書」は、リオ・デ・ムエルテ上陸作戦(ピッグス湾事件がモデルと思われる)の際のカリー大統領とビル・マーチンの行動に関するもの。テレビドラマの「プリミュラ・リポート」は「CIAによる政治的暗殺」に関するものとされている。また、テレビドラマの方がこの「プリミュラ・リポート」の提出要求を巡るやりとりがホワイトハウスとマーチンの関係の前面に押し出されている感がある。

・原作ではホワイトハウス側でCIAとの窓口になって、CIAに対する文書提出の要求をするなどしているのは大統領補佐官カール・ダンカンだが、テレビドラマではこの役は登場せず、タック・タルフォードがこうした任に当たっている。

・マーチンがモンクトンとの取引材料として提示する中でも決定的な証拠として、違法行為を行う鉛管工グループを率いるラース・ハーグランドとモンクトンとの直接の関わりを示す同席写真がある。これについて、テレビドラマでは、マーチンの部下バーニー・ティベッツが一眼レフと望遠レンズでホワイトハウスの敷地外から大統領執務室内を直接捉えるという描写がされている。これは、スパイ活動的なイメージをわかりやすく示すドラマ的な描写だろうが、一眼レフと望遠レンズ(しかも三脚も何もなく手持ちで!)で室内の様子を撮影するというのは、現実的ではない。原作小説では、ホワイトハウスの内部で、大統領と訪問者の姿をとらえる公式カメラマンがおり、その撮影した写真がCIAに流れるという、より合理的な(しかしドラマ的ではない)描写がされている。

・キャンプ・デイヴィッドでのモンクトンとマーチンの対決シーンについて、テレビドラマは原作をほぼなぞっている。しかし、原作ではワシントンに残るタルフォードがマーチンの面会希望についてモンクトンに電話をかけてくる(その時点でタルフォードはマーチンの意図を理解しているが、電話の盗聴をおそれて「ぜひともマーチンに会って話し合ってもらわねばなりません。」とモンクトンにアドバイスする)のに対して、テレビドラマではタルフォードはモンクトンに同行してキャンプ・デイヴィッドにおり、そこにマーチンがやってきてモンクトンと同席のタルフォードに「証拠」を提示していく、という流れになっている。

・原作ではCIA副長官としてモンクトンの友人である海軍大佐アーニー・ピットマンが押し込まれており、彼の処遇もモンクトンにマーチン更迭を決意させる材料の一つになっているが、テレビドラマではこのプロットは省かれている。このピットマン大佐に対応する実在の人物として海兵隊中将ロバート・クッシュマン(Robert E. Cushman, Jr.)がいる。