メグレと死体刑事

cadavre

 夏の出張時に鞄なんぞ買ったのが響いて、金欠状態です。本は読みたし金は無し。図書館があるじゃないか!といっても少々遠いんですよね。でついつい仕事帰りにブックオフの100円コーナーへ。セツナイなぁ。
 ジョルジュ・シムノン長島良三訳)「メグレと死体刑事」(読売新聞社「フランス長編ミステリー傑作選3」1986年)。新書判で218頁。分量的には中編でしょうか。メグレはブレジョン予審判事の依頼を受けて、個人として田舎町サン・オーバンを訪れます。予審判事の妹の嫁ぎ先ノオ家が巻き込まれた醜聞。事故か殺人か。殺人だとすれば殺したのは噂どおりノオ家の人間なのか。捜査を始めるメグレだが、かつての同僚で現在は私立探偵、「死体(カダーヴル)刑事」と渾名されていたカーヴルがメグレに先回りして口止め工作をしている様子。彼は誰に雇われたのか。といった感じです。
 いかにもシムノン流の心理ドラマで、謎自体は単純なものの、「物事のおさめ方」がこの作品のキモなのでしょう。私的な立場で捜査するメグレ。余所者に口を閉ざす住人。階級対立の中でのそれぞれの生き方。その中で導かれる解決は(正義という観点からすれば)極めて不純でいかがわしいものです。が、読後感はそれほど悪くありません。もっとも「傑作」という名に値するのかどうか、私には判りません。
 実は読んでて一番気になったのは、翻訳の日本語でして・・・主語・述語の対応していない文や、かかりうけ関係の不明瞭な文が散見されます。あとがきや略歴を見ると、ベテランの翻訳家さんらしいですが、一寸いただけませんね。


 それにしてもこんな本が出ていたんですね。溢れかえる情報の中に手を差し込んで偶然掴んだ一片、という感じでしょうか。まこと人生は短く世界は広いのであります。