権力と陰謀のキャスト(改訂)

 2011年1月12日の日記(一番最初は2008年4月15日の日記)に載せたものの改訂版


原題:Washington: Behind the Colosed Doors
(ABC/Pramount Television 1977年秋放映)
http://www.imdb.com/title/tt0075597/#comment


邦題:権力と陰謀 大統領の密室
NHK 1978年夏放映)
http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=7274


全6話
第1話「栄光の椅子」
第2話「機密漏洩」
第3話「盗聴指令」
第4話「不法侵入」
第5話「最後通告」
第6話「対決」


キャスト表

役名 Character 劇中での地位 モデル Model 演者 Actor/Actress 吹き替え
ウィリアム(ビル)・マーチン William Martin CIA長官 リチャード・ヘルムズ Richard McGarrah Helms クリフ・ロバートソン Cliff Robertson 瑳川哲朗
リンダ・マーチン Linda Martin ビル・マーチンの妻 ? na ロイス・ネトルトン Lois Nettleton 馬淵晴子
サリー・ウォレン Sally Whalen ビル・マーチンの愛人 ? na ステファニー・パワーズ Stefanie Powers 江波杏子
サイモン・キャペル Simon Cappell ビル・マーティンの補佐官 ? na アラン・オッペンハイマー Alan Oppenheimer ?
バーニー・ティベッツ Bernie Tibbetts CIA職員 ? na リック・ゲイツ Rick Gates ?
エスカー・スコット・アンダーソン Esker Scott Anderson 前大統領 リンドン・ベインズ・ジョンソン Lyndon Baines Johnson アンディー・グリフィス Andy Griffith 佐野浅夫
マルタ・アンダーソン Marta Anderson アンダーソン前大統領の妻 レディ・バード・ジョンソン Lady Bird Johnson ダナ・ハンセン Danna Hansen ?
リチャード(ディック)・モンクトン Richard Monckton 大統領 リチャード・ニクソン Richard Milhous Nixon ジェイソン・ロバーズ Jason Robards 西村 晃
モンクトン夫人 Mrs Monckton モンクトンの妻 パトリシア・ニクソン Patricia Nixon ジューン・デイトン June Dayton ?
フランク・フラハーティー Frank Flaherty 大統領補佐官=首席 ハリー(ボブ)・ハルデマン(ホールドマン)(注1) Harry Robbins Haldeman or John Ehrlichman ロバート・ヴォーン Robert Vaughn 田口 計
タッカー(タック)・タルフォード Tucker "Tuck" Tallford 大統領補佐官(又は特別顧問) チャールズ・コルソン(注1) Charles "Chuck" Wendell Colson ジョン・レーン John Lehne ?
ローレンス・アリソン Lawrence Allison 大統領補佐官=内政担当 ジョン・アーリックマン(注1) John Daniel Ehrlichman フランク・マース Frank Marth ?
カール・テスラー Carl Tessler 大統領補佐官=国家安全保障担当 ヘンリー・キッシンジャー Henry Alfred Kissinger ハロルド・グールド Harold Gould 穂積隆信
ボブ・ベイリー Bob Bailey モンクトンの古参選挙スタッフ/ハンク・フェリスの前任の報道担当 ハーバート・クライン (注2) Herbert Klein バリー・ネルソン Barry Nelson 塚本信夫
ドロシー・ケンプ Dorothy Kemp モンクトンの秘書 ローズ・メアリー・ウッズ Rose Mary Woods ジーン・キャメロン・ハウエル Jean Cameron Howell ?
ジミー・バード Jimmy Bird フラハティの補佐官 ドワイト・チャピン(注3) Dwight L. Chapin ジョセフ・ハッカー Joseph Hacker ?
ロジャー・キャッスル Roger Castle 大統領法律顧問 ジョン・ディーン(注4) John Wesley Dean III デイヴィッド・セルビー David Selby 伊武雅刀
ジェニー・ジェイミソン Jennie Jamison ロジャーの恋人/連邦証券取引委員会(SEC)に就職 ? na メグ・フォスター Meg Foster ?
イーライ・マッギン Eli McGinn SEC職員=ジェニーとワンダの上司 ? na ペーター・コフィールド Peter Coffield ?
ワンダ・エリオット Wanda Elliott SEC職員=ジェニーの同僚/後に再選委員会職員 ? na ララ・パーカー Lara Parker ?
アダム・ガーディナー Adam Gardiner 大統領再選委員会財務部長 ヒュー・W・スローンJr. Hugh W. Sloan, Jr. トニー・ビル Tony Bill 石田太郎
ポーラ・ストーナーガーディナー Paula Stoner Gardiner アダム・ガーディナーの妻/TVプロデューサー ? na フランシス・リー・マケイン Frances Lee McCain ?
ハンク・フェリス Hank Ferris 報道担当/後に大統領再選委員会副責任者(副委員長) (ロン・ジーグラー)/ジェブ・マグルーダー(注2) Ronald Louis Ziegler/Jeb Stuart Magruder ニコラス・プライアー Nicholas Pryor 曽我部和行
キャシー・フェリス Kathy Ferris ハンク・フェリスの妻 ? na ダイアナ・ユーイング Diana Ewing ?
マイロン・ダン Myron Dunn 財務長官/大統領再選委員会責任者 ジョン・ミッチェル(注5) John Newton Mitchell ジョン・ハウスマン John Houseman 田中明
ブルースター・ペリー Brewster Perry 大統領再選委員会(財務)委員長 モーリス・スタンズ Maurice Hubert Stans ジョージ・ゲインズ George Gaynes 中村正
アレックス・コフィー Alex Coffee 大統領再選委員会でのハンク・フェリスの部下 ドナルド・セグレッティ ?(注6) Donald Segretti ? マイケル・アンダーソン・ジュニア Michael Anderson Jr ?
ピーター・オジマンディアス Peter Ozymandias 実業家=航空機産業 ロバート・アプラナルプ ? Robert Abplanalp ? ジョセフ・シローラ Joseph Sirola ?
ベネット・ローマン Bennett Lowman 実業家=ホテル・カジノ経営 ジョージ・ファーカス ?/ロバート・ヴェスコ ? George Farkas? or Robert Lee Vesco ? ジョン・ランドルフ John Randolph ?
アニー・マリー・ローマン Anne Marie Lowman ベネット・ローマンの妻 ルース・ファーカス Ruth Lewis Farkas メアリー・ラロッシュ Mary LaRoche ?
アシュトン Ashton ベネット・ローマンの顧問 ? na ジョン・カー John Kerr ?
ラース・ハーグランド Lars Haglund 元CIA/タルフォードとアリソンの配下の工作員 E. ハワード・ハント(注7) E. Howard Hunt スキップ・ホメイヤー Skip Homeier ?
ウォルター・タロック Walter Tulloch 元軍諜報部員/タルフォードとアリソンの配下の工作員 ゴードン・リディ(注7) G. Gordon Liddy フィリップ・R・アレン Phillip R Allen ?
ハーヴィー・バス Harvey Bass 私立探偵=タルフォードとアリソンの配下 トニー・ウラセヴィッチ 又は ジョン・コールフィールド ?(注8) Tony Ulasevicz or John Caulfield ? マディスン・アーノルド Madison Arnold ?
バート・サラシ Burt Saraceni 私立探偵=タルフォードとアリソンの配下 トニー・ラロッコ ? Tony LaRocco ? ボラ・シルヴァー Borah Silver ?
エルマー・モース Elmer Morse FBI長官 J. エドガー・フーバー J. Edgar Hoover セイヤー・デイヴィッド Thayer David ?
ジャック・アサートン Jack Atherton 上院議員 J. ウィリアム・フルブライト ?(注9) James William Fulbright ? リンデン・チャイルズ Linden Chiles ?
ジョー・ウィズノフスキー Joe Wisnovsky 「ワシントン・プレス」紙の記者 ボブ・ウッドワード/カール・バーンスタイン Bob Woodward & Carl Bernstein バリー・プリマス Barry Primus 久富惟晴
ド・ゴール Sid Gold 人権団体の代表 ? na フレッド・サドフ Fred Sadoff ?
ウィリアム・アーサー・カリー William Arthur Currie 元大統領 ジョン・F・ケネディ John F. Kennedy (名前のみ言及) na na
エド・ギリー Edward Gilley アンダーソンの副大統領/大統領候補者 ヒューバート・ハンフリー Hubert Horatio Humphrey, Jr. (名前のみ言及) na na
フォービル ? 上院議員/予備選でのモンクトンの対立候補 ネルソン・ロックフェラー(注10) Nelson Aldrich Rockefeller (名前のみ言及) na na
ジョナサン・グリーン Johnathan Green 盗聴工作の対象者 ダニエル・エルスバーグ Daniel Ellsberg (顔写真と名前のみ) na na
アーサー・ペリーン(パライン) Arthur Perrine 盗聴工作の対象者 ? na (名前のみ) na na
ダーウッド・ドリュー(注12) ? ビル・マーチンがモンクトンに推薦した次期長官 ウィリアム・コルビー ?(注11) William Colby ? (名前のみ言及) na na
メリマン Merriman 次期大統領立候補者の一人 エドマンド・マスキー ? Edmund Muskie ? (顔写真と名前のみ) na na

注1:劇中の様々な出来事との関わりにおいて、フラハティー、アリソン、タルフォードは、ハルデマン(首席補佐官)、アーリックマン(内政担当補佐官)、コルソン(大統領特別顧問)に明確に対応するというわけではない。フラハティーは首席補佐官なのでハルデマンであろう。タルフォードについて、アリソンとタルフォードではアリソンの方が地位が上のようであること、タルフォードはハーグランドらの活動により直接的に関与していること、役名「タック・タルフォード」と「チャック・コルソン」の類似性、チャック・コルソンはパイプスモーカーであり、劇中のタルフォードもパイプを携えていることから、ここではタルフォード=コルソンとした。しかし、例えば実際のウォーターゲート事件の際にニクソンの意を受けてCIA長官ヘルムズに圧力をかけたのはハルデマンであり、こうした姿は劇中のタルフォードと重なるようにも思われる。
注2:劇中、ボブ・ベイリーは20年来のモンクトンの選挙スタッフであり、大統領選挙中は渉外広報担当、モンクトンの大統領就任後も報道関係を担当するが、比較的初期の段階でフラハティと対立し辞任している。現実のハーバート・クラインは1973年までホワイトハウスを含む行政庁全般の報道担当をつとめているが、辞任以前から政権内での影響力は低下していたとされるので、ベイリー=クラインとみてよいだろう。他方、劇中、ハンク・フェリスはホワイトハウスでのベイリーの補佐役として出発し、ベイリーの辞任後の後任を経て、大統領再選委員会の副責任者=マイロン・ダンの補佐(吹き替えではブルースター・ペリー「委員長」の下での副委員長)になるので、ほぼ現実のジェブ・マグルーダーの経歴と重なりそうである。
注3:フラハティの補佐として大統領執務室への人の出入りを取り仕切っていること、若く長身でハンサム(?)ということから、モデルはドワイト・チャピンとした。
注4:ロジャー・キャッスルを現実のジョン・ディーンを完全に重ねることはできない。劇中、ロジャー・キャッスルがFBI長官エルマー・モース、CIA長官ビル・マーチンらに違法行為のブリーフィングをする場面があるが、これは現実の(ジョン・ディーンではなく)大統領法律顧問トム・チャールズ・ヒューストンによる「ヒューストン計画」をモデルとしている。なお、劇中のロジャー・キャッスルにはジェニー・ジェイミソンという恋人がいる(最終的には破局)が、実際のディーンには美しい妻がいた。この妻が議会の公聴会で夫を見守る姿が、議員や国民のディーンへの心証を良くする方向に作用したと言われる。
注5:実際のミッチェルは財務長官ではなく司法長官ののち大統領再選委員会(CREEP)の責任者。
注6:劇中アレックス・コフィーはハンク・フェリスの面接を受けて部下になり、モンクトンの対立候補を貶める「汚いトリック」を行う。実際に「汚いトリック」の中心となったのはドナルド・セグレッティだが、彼はドワイト・チャピンの肝いりで再選委員会入りしている。
注7:劇中の最後にハーグランドとタロックはメリマン事務所侵入の実行犯として逮捕されている。実際のウォーターゲート事件では、ハワード・ハントとゴードン・リディは組織役であり実行犯5人には入っていない。しかし、その他の描写から明らかにハーグランド=ハント、タロック=リディであろう。
注8:いずれもアーリックマンとタルフォードに雇われた(後には再選委員会のためにも働く)「Private Eye」だが、劇中、ハーヴェイ・バス(馬面の方)とバート・サラシニ(ガムを噛んでいる目のギョロッとした方)はペアで行動しているので、バス=ウラセヴィッチ、サラシニ=ラロッコと見るのが適当か。
注9:劇中、アサートンは上院外交委員会の有力議員。フルブライトニクソン時代の上院外交委員長。
注10:ロックフェラーは実際には上院議員ではなくニューヨーク州知事。劇中、カール・テスラーは元々フォービル陣営のアドバイザーであり、これは現実のキッシンジャーがロックフェラーのアドバイザーだったことと重なる。
注11:現実にはヘルムズの後任としてジェームズ・シュレシンジャーが半年ほど長官を務めた後、コルビーが長官となる。コルビーはCIA生え抜きだが、ヘルムズとは異なりCIA改革路線を推し進めた人物なので、ドリュー=コルビーというのは無理があるかもしれない。
注12:吹き替えでは「ディガーウッド・ドリュー」と聞こえる。


修正履歴
 2011年1月12日掲載
 2011年1月15日修正
   ・アレックス・コフィー、ハーヴィー・バス:モデルの付記及び注6・注8の挿入→注番号の整理
   ・アーサー・ペリーン:項目の新設
   ・メリマン:モデルの付記
 2011年1月18日修正
   ・ベネット・ローマン:モデルの付記
   ・ピーター・オジマンディアス:モデルの付記
 2011年1月22日修正
   ・ベネット・ローマン、アン・マリー・ローマン:モデルの付記
   ・第5話の題名
 2013年2月9日修正
   ・フランク・フラハティーの項目のモデル名
   ・注1の内容
 2016年6月5日修正
   ・ブルースター・ペリー(演者:ジョージ・ゲインズ)の吹き替えと地位
   ・ハンク・フェリス(演者:ニコラス・プライアー)の地位、注2の内容修正
   ・カール・テスラー(演者:ハロルド・グールド)とジョー・ウィズノフスキ(演者:バリー・プライムス)の吹き替え(watergaeteさんの情報による)
   ・注12の追加
   ・注8の内容
 2021年2月2日修正
   ・フランク・フラハティー(演者:ロバート・ボーン)の項目のモデル名
   ・ボブ・ベイリー(演者:バリー・ネルソン)の吹き替え
   ・ジョナサン・グリーンの項目のモデル名
   ・注1の内容修正・追加
   ・注4の内容追加
   ・注8、注11の微修正

権力と陰謀/大統領の密室 DVD

 日記の操作の仕方も忘れかけた今日このごろ。3年以上放置していました。

 直前の(といっても2013年2月の)日記で、"Washington: Behind Closed Doors"(邦題「権力と陰謀 大統領の密室」のDVDが、と書いています。合衆国のACORNというメーカーが出した3枚組のDVDです。権利処理はきちんとなされているのでしょうか。このDVDはすぐに購入しました。日本でもAmazonで注文可能でしたが、今は中古品のみの扱いとなっているようです。
 当然のことながら日本語吹き替えも字幕もありません。しかし、英語字幕は表示できるので、これはありがたい。何度も繰り返し見直しています。
 そんな中で、購入直後から気になっている点がありました。ドラマのクライマックス、第6話のキャンプ・デービッドでのモンクトン大統領とCIA長官ビル・マーチンの対決シーンです。

 アスペン・ロッジの室内で、マーチンは自分の切り札として、ホワイトハウススタッフによる盗聴行為と大統領の関与の証拠をモンクトンとタック・タルフォードに提示します。その後、マーチンとモンクトンは屋外に出て(室内だと海軍に盗聴されているので)、薄っすらと雪の残るキャンプ・デービッドの敷地内を歩きながら、「取引」の話し合いをします。マーチン(それとサイモン・キャペルとバーニー・ティビッツの計3人)がホワイトハウスの違法行為を公にしないのと引換えに、(1) プリミラ・リポートの破棄、(2) CIAを辞めるマーチンを小国の大使にする、(3) 後任のCIA長官に生え抜きのダーウッド・ドルーを任命すること、(4) エルマー・モースに命じてFBIによるCIAへの妨害を止めさせ連絡関係を再構築すること、の4つを要求します。モンクトンは「マーチンは何を求めるつもりか? どういう態度をとるべきか? 時間稼ぎができないか?」といった態で、話を逸らしたりしながら肩を並べて歩きます。取引条件を確認した二人は、広場(片隅に故アーサー・カリー元大統領が息子のために設置させたシーソーなどの遊具があり、向こうではちょうど鹿が草を食んでいます)で立ち止まり、マーチンはモンクトンに、取引条件を呑むか否かを問います。向かい合う二人。モンクトンは一旦視線を逸らして鹿を見やり、マーチンに向き直り、唇を舐めたあとで、一言ぼそりと「呑もう(I'll take it.)」とこたえ、マーチンを残して歩み去ります。
 両者の間の緊張感がフッととける瞬間。モンクトンの怒りと敗北感の入り混じったような、何とも言えない表情が印象に残るシーンです。モンクトンが背を丸めて歩く後姿。勝利を収めたマーチンですが、その広場に独り立つ姿にも空しさのようなものが漂います。

 しかし! 何故かDVDでは、このモンクトンの「呑もう(I'll take it)」がカットされているのです。モンクトンは、マーチンに向き直ったあと、いきなり何も言わずにその場から歩き去ってしまいます。最初観た時に愕然として、自分のDVDの不良か、編集ミスか、とあれこれ考えました。最近になってAmazon.comのレビューを見たところ、同じ点を指摘している投稿が一件だけありました(イギリス在住の方のようです)。少なくとも私の手元にあるDVDだけの不良といった現象ではないようです。その投稿主は、推測として、何らかのクレームを予防するためにカットされたのではないかとしています。CIA長官が大統領を脅迫して、大統領が明示的にそれに応じる、というのは問題がありすぎるということでしょうか。でも、このドラマ全体が犯罪的な行為に満ち満ちていますから、このシーンだけ手を入れても仕方ないように思うのですが。
 この後にマーチン夫妻がジャマイカに大使として赴任する場面があるので、視聴者にはモンクトンが取引に応じたことは伝わります。しかしながら、対決シーンの頂点を削ってしまうと、あのキャンプ・デイビッドのシーン全体が何とも間の抜けたものになってしまうように思えてなりません。

警察署長(スチュアート・ウッズ)


 もう一つ好きなドラマ『警察署長』についても意外に資料がないので、備忘録。


原作:スチュアート・ウッズ『警察署長 Chiefs』1981年
   (邦語訳は真野明裕によりハヤカワ文庫)


1983年11月・CBS
1985年8月・NHK「サスペンス・ドラマシリーズ」

第1話「警察署長・事件発生編・少年なぞの死、またひとり消えた」
   (少年・なぞの死
 NHK放映年月日:1985年8月19日(月)21時40分から23時10分
 舞台:1920年


第2話「警察署長・展開編・相次ぐ死のゲーム、ついに署長も殺された」
   (死のゲーム)
 NHK放映年月日:1985年8月20日(火)21時40分から23時10分
 舞台:1946年


第3話「警察署長・事件解決編・犠牲者総数43、なぞは暴かれた」
   (なぞは暴かれた)
 NHK放映年月日:1985年8月21日(水)21時40分から23時10分
 舞台:1962〜1963年


主要キャスト等

登場人物 Caracter 劇中での地位 演者 Actor/Actress 吹き替え
ヒュー・ホームズ Hugh Holms デラノ銀行頭取;デラノ市議会議長;州上院議員 チャールトン・ヘストン Charlton Heston 小林昭二
フォクシー・ファンダーバーク Foxy Funderburke 養犬家;退役軍人;初代署長志願者の一人 キース・キャラダイン Keith Carradine 日下武史
スキーター・ウィリス Skeeter Willis メインブリッジ郡保安官 ポール・ソルヴィーノ Paul Sorvino 金田龍之介
ウィル・ヘンリー・リー Will Henry Lee デラノ警察初代署長;元綿花栽培農家 ウェイン・ロジャース Wayne Rogers 山本圭
キャリー・リー Carrie Lee ウィル・ヘンリーの妻 テス・ハーパー Tess Harper 萩尾みどり
ビリー・リー Billy Lee ウィル・ヘンリーの息子;州上院議員;州副知事 ティーブン・コリンズ Stephen Collins 天田俊明
パトリシア・リー Patricia "Trish" Lee ビリーの妻 ヴィクトリア・テナント Victoria Tennant (不明)
サニー・バッツ Sonny Butts トーマス署長の死により1946年署長に ブラッド・デイヴィス Brad Davis 野沢那智
タイラー・ワッツ Tyler Watts/Joshua Cole 元陸軍憲兵隊少佐;1962年からの署長 ビリー・ディー・ウィリアムズ Billy Dee Williams 横内正


おもしろさ:


・原作を読んでもテレビドラマを観ても泣ける。テレビドラマの最後はより感動的だが、いずれにしても後味のよい作品というわけではない。犠牲者は43人、他に初代の署長ウィル・ヘンリー・リーは非業の死をとげ、彼を撃ったジェシー・コールは死刑になり、黒人帰還兵の自動車整備工マーシャルはサニー・バッツ一味に殺され、タイラー・ワッツ署長も一時不当に監禁されて殺されかけ・・・


・物語としてよくできている。禍福は糾える縄のごとし。例えば、初代署長のウィル・ヘンリー・リーは2件目の死体発見の後でフォクシー・ファンダーバークを疑うが、証拠がなく、また隣の郡の保安官との間で揉めてしまい苛立つ。この苛立ちもあって、大地主ホス・スペンスの息子エミットの悪事をとがめて黒人達の前で打ち据える。これに怒ったホス・スペンスはウィル・ヘンリーの元使用人ジェシー・コールに地所の沼地での作業を強要し、ジェシーマラリアに罹ってしまう。そして、マラリアの譫妄状態の中でジェシーはウィル・ヘンリーを射殺してしまう。この事件を契機にジェシーの息子のジョシュア(ウィリー)は他州の親戚のもとに逃れて・・・等々。このように伏線がそこかしこに張ってあって、物語が織り上げられていく感じ。


・開拓時代の名残、ゾウムシによる綿花栽培への打撃、KKK、F・D・ルーズベルト第二次世界大戦の帰還兵、黒人の地位向上と残存する差別等々、そしてエピローグにはケネディのダラス遊説まで、時代時代の社会背景が巧みに絡ませてある。政治ドラマとして読むこともできる。


原作とテレビの違い:


・全体としてテレビドラマは原作に忠実に映像化されている。大きな違いと感じるものを下にいくつか挙げる。これ以外にも細かな差異はある。


・原作ではビリー・リーとジョシュア・コール(原作ではウィリー・コール)の友情の描写はあまりないが、テレビドラマではこれが描かれている。具体的には、テレビドラマ第1話最初の方で、リー一家とコール一家の別れの場面でジョシュアとビリーの間で以下のやり取りがある。
ジョシュア
「ダブル(馬の名前)のことは心配ないよ。俺が面倒みるからさ。約束だ、ちゃんと世話するよ。まかしといて。」
ビリー
「毎日人参をやってくれよな。大好きなんだ、こいつ。」
ジョシュア
「盗んできてでもやるから。」


・原作ではタイラー・ワッツ署長はビリー・リーに出自を明かさずに終わる。しかし留置場の常連パイバック・ジョンソンの言葉などから新聞記者ジョン・ハウエルは真相を知る(しかしスクープとなりうるこの情報を彼は封印する)。テレビドラマのラストは、タイラー・ワッツがビリー・リーのもとを訪れて、上に掲げた第1話のやり取りを再現して出自を明かすシーンとなっている。


・タイラー・ワッツの行動がビリー・リーの州知事選決選投票に与えた影響。原作では、投票権のある州下院議員の一人フレッド・ミッチェルの甥が犠牲者に含まれていて、ミッチェルが甥(の遺体)を発見してくれたタイラーに感謝し、他の2〜3人の議員も誘ってビリー・リーに投票することを伝えてくる。結果、ビリーは2票差で選挙に勝つ。テレビドラマでは、フレッド・ミッチェルは出てくるが、むしろ投票終了までタイラーをおとなしくさせるようビリー・リーに要求する役どころである。ラストで、トリッシュ・リーの口から選挙が2票差だったことが述べられ、これを受けてタイラーの「2票のために43人の少年を死なせたようで・・・」といったセリフはあるが、直接の因果関係の説明はない。


・原作でもテレビドラマでも、犯行の背後に性的な動機があるだろうことは述べられている。しかし、テレビドラマでは原作にある性的な要素が排除されている部分がある。例えば、フォクシー・ファンダーバークが馬小屋で自慰をする場面、サニー・バッツは人に暴力を加えることで性的な興奮を覚える(戦場では丸腰の捕虜を射殺しながら、デラノの共進会会場では喧嘩相手を殴りながら、射精までしててます)という描写など。


・第1部で、2件目の殺人の際に、隣の郡の保安官はテレビドラマの方があからさまに非協力的。これによって、管轄の問題が強調され、第3部につながっていく。ちなみに隣の郡と保安官の名前は原作ではトールバット郡のグールズビ保安官で、「弱々しくやつれた感じの初老の男」だが、テレビドラマではジャスティン郡のグランディ保安官で、太った髭面の荒々しい男。


・原作では最後にヒュー・ホームズの死が暗示されるが、テレビドラマにそこまでの描写はない。


その他:


・原作者スチュアート・ウッズは、テレビドラマにFBI統括捜査官ポープ役で出演している。このことは原作邦訳のあとがきにも記されている。


・個人的には一番印象に残っているのは郡保安官スキーター・ウィリス役のポール・ソルヴィーノかもしれない。金田龍之介の吹き替えが(太った人っぽい喉のつまったような声で)ぴったりはまっていたのと、人物造形としても、最初は憎めない部分も見せながら、長年の同じ地位にあるせいか、元々の性格のせいか、徐々に腐敗の度を強めていくようなところが出ていて(あるいは本人は変わらなくて時代の変化にとりのこされていっているのか)、興味深かった。だいぶ後に、オリバー・ストーン監督の『ニクソン』にキッシンジャー役で出ていたが、一目見て同じ役者さんだとは気付かなかった。

権力と陰謀 原作とテレビドラマ

 アメリカでDVDが発売されているらしいので、注文してみた。無事届くかどうか。


 原作とテレビの違い、それからドラマと現実の違いについて、書こう書こうと思ってなかなか進まないので、まずは前者についてメモ書き。


(1)原作はジョン・アーリックマン『ザ・カンパニー The Campany』であり、1976年出版。邦語訳は新庄哲夫によるものが角川書店「海外ベストセラー・シリーズ」で1978年。


(2)原作とテレビドラマが扱う時間的範囲は同一(アンダーソン大統領再選不出馬演説からウォーターゲート事件をモデルにした侵入事件まで)だが、重点等が異なる。
 原作は大統領選でのモンクトン勝利までで全体の半分以上(邦語訳で366頁中200頁)を占める。その中で、ウィリアム・アーサー・カリー、アンダーソン、モンクトンの関係、CIAと長官ビル・マーチンの立場、プリミュラ・リポート(プライムラ報告書)の位置づけなどの背景が細かく説明されている。そして、後半は、モンクトン政権下でのホワイトハウスビル・マーチンの暗闘に焦点があてられ、そこにエルマー・モース率いるFBIとの軋轢、大統領補佐官カール・テスラーの行動などが絡んでくる。最後は、キャンプ・デイヴィッドでのモンクトンとマーチンの取引の場面、そしてエピローグとして、大使となったマーチンが公邸で侵入事件のニュースを知る場面で物語が終わる。
 テレビでは、第1話でアンダーソン大統領再選不出馬からモンクトンの新大統領選出までが描かれ、第2話以降では、マーチンの苦闘だけでなく、モンクトン政権内部の腐敗の様子、とりわけフラハティによるスタッフ支配、再選委員会等による違法行為の数々、それらと絡めて若手スタッフ(ハンク・フェリス、アダム・ガーディナー、ロジャー・キャッスル)を巡るドラマが描かれている。反戦運動への強権的な対応といった要素も見逃せない。


(3)原作に比べるとテレビドラマは群像劇の色が濃く、主役のはずのマーチンの出番は減っている。また、原作ではマーチンの行動の動機が保身という利己的なものを中心として描かれるのに対して、テレビドラマでは、モンクトンとその政権の腐敗が強調され、またマーチンが東南アジアでの戦争に関して部下からブリーフィングを受ける際に、戦地の民衆の悲惨な現状をフィルムで観ながら複雑な表情を浮かべる場面などが挿入されることで、マーチンに若干の良心的な動機があるかのようにイメージさせる構成になっている。 ただ、テレビドラマでもマーチンが善玉でモンクトンが悪玉という単純な図式が提示されているわけではない。


(4)原作ではマーチンは妻リンダと離婚し、サリーとともにジャマイカに赴任している。テレビドラマでは、マーチンは政治的な情勢の推移とそこからくる緊張、サリーの行動の裏への疑いなどから、サリーと破局し、第5話で妻リンダとよりを戻している。原作、テレビドラマのいずれにおいても、こうした女性関係でのスキャンダルがマーチンのモンクトンへの心証を悪化させる要因となっている。
 なお、原作ではマーチンがジャマイカに赴任する際に、CIAでの補佐官サイモン・キャペルを帯同するが、テレビドラマではそうした描写はない。


(5)原作とテレビドラマでは、ホワイトハウスがCIA及び長官ビル・マーチンに不信の目を向けるのに対して、CIAがホワイトハウスの違法行為の証拠を握っていく、という骨組みは同一である。しかし、それに関係する細部は異なる。例えば・・・

・原作の「プライムラ報告書」は、リオ・デ・ムエルテ上陸作戦(ピッグス湾事件がモデルと思われる)の際のカリー大統領とビル・マーチンの行動に関するもの。テレビドラマの「プリミュラ・リポート」は「CIAによる政治的暗殺」に関するものとされている。また、テレビドラマの方がこの「プリミュラ・リポート」の提出要求を巡るやりとりがホワイトハウスとマーチンの関係の前面に押し出されている感がある。

・原作ではホワイトハウス側でCIAとの窓口になって、CIAに対する文書提出の要求をするなどしているのは大統領補佐官カール・ダンカンだが、テレビドラマではこの役は登場せず、タック・タルフォードがこうした任に当たっている。

・マーチンがモンクトンとの取引材料として提示する中でも決定的な証拠として、違法行為を行う鉛管工グループを率いるラース・ハーグランドとモンクトンとの直接の関わりを示す同席写真がある。これについて、テレビドラマでは、マーチンの部下バーニー・ティベッツが一眼レフと望遠レンズでホワイトハウスの敷地外から大統領執務室内を直接捉えるという描写がされている。これは、スパイ活動的なイメージをわかりやすく示すドラマ的な描写だろうが、一眼レフと望遠レンズ(しかも三脚も何もなく手持ちで!)で室内の様子を撮影するというのは、現実的ではない。原作小説では、ホワイトハウスの内部で、大統領と訪問者の姿をとらえる公式カメラマンがおり、その撮影した写真がCIAに流れるという、より合理的な(しかしドラマ的ではない)描写がされている。

・キャンプ・デイヴィッドでのモンクトンとマーチンの対決シーンについて、テレビドラマは原作をほぼなぞっている。しかし、原作ではワシントンに残るタルフォードがマーチンの面会希望についてモンクトンに電話をかけてくる(その時点でタルフォードはマーチンの意図を理解しているが、電話の盗聴をおそれて「ぜひともマーチンに会って話し合ってもらわねばなりません。」とモンクトンにアドバイスする)のに対して、テレビドラマではタルフォードはモンクトンに同行してキャンプ・デイヴィッドにおり、そこにマーチンがやってきてモンクトンと同席のタルフォードに「証拠」を提示していく、という流れになっている。

・原作ではCIA副長官としてモンクトンの友人である海軍大佐アーニー・ピットマンが押し込まれており、彼の処遇もモンクトンにマーチン更迭を決意させる材料の一つになっているが、テレビドラマではこのプロットは省かれている。このピットマン大佐に対応する実在の人物として海兵隊中将ロバート・クッシュマン(Robert E. Cushman, Jr.)がいる。

権力と陰謀 あらすじ(6)


権力と陰謀 大統領の密室
第6回「対決」
NHK総合 1978(昭和53)年8月6日(日)20時50分〜22時20分


 ワシントンDC市内の電話交換所に配置されたCIA職員ガスは、ホワイトハウス関係者や報道関係者がFBIにより盗聴されていることをサイモン・キャペルに示す。キャペルの報告からビル・マーチンはホワイトハウスが違法な情報収集活動を行っていると確信する。モンクトンとの対決が避けられないと悟ったマーチンは、CIAの活動を守るためとして、違法な情報収集の実態を調査するようCIA職員バーニー・ティビッツに命ずる。ティビッツは、ラース・ハーグランドに率いられた一味がアーサー・パライン宅に不法に侵入し盗聴器を仕掛ける様を撮影する。しかしマーチンは、ハーグランドの活動がホワイトハウス、とりわけモンクトン大統領の指示や承認の下で行われているという証拠を得るために調査を継続させる。マーチンのホワイトハウスとの対決姿勢に困惑するティピッツだったが、大統領執務室でハーグランドとモンクトンが同席する様子を捉えることに成功する。モンクトンはその時まさにハーグランドに、歴史的にみて(麻薬と)性道徳の乱れが国を滅ぼす要因であり、その意味からもマーチンのような輩はクビにしなければならないと説いていた。
 後刻、専用ヘリコプターでキャンプデイヴィッドに向かうモンクトン一行は、マーチンが突如面会を申し込んできたことを訝りながら、マーチンを解任することを確認する。


 翌朝、キャンプデイヴィッドのアスペンロッジに滞在するモンクトンを訪ねたマーチンは、解任を告げようとするモンクトンを制して違法活動とモンクトンの関与の証拠(盗聴のリストとハーグランド等の写真)を無言でモンクトンとタルフォードに示す。言葉を失うモンクトン。タルフォードは「何が欲しいんだ」と問う。国防総省により盗聴されている虞のあるロッジ室内を避け、マーチンはモンクトンを屋外に連れ出し取引を迫る。取引の内容は、ホワイトハウスの違法活動について口を噤む見返りとして、(1)プリミラリポートを破棄すること、(2)マーチンの中小国の大使に任命すること、(3)CIA生え抜きのダーウッド・ドリューを後任に任命すること、(4)CIAを妨害するFBIの活動を掣肘することである。渋々と取引に応じるモンクトン。
 後日マーチンはリンダを連れ大使としてジャマイカに赴任する*1


 一方、大統領再選委員会での「工作」も活発さを増していた。マイロン・ダン、ハンク・フェリス*2、ウォルター・タロック、そしてロジャー・キャッスルも加わり、モンクトンの対立候補に関する情報収集と彼らの権威を失墜させる方策が話し合われる*3。また、実業家オジマンディアスが自らのビジネスへの便宜と引き換えに100万ドルを提供し、小分けされた小切手は私立探偵バスとサラシニによって複数の銀行で目に付かぬように換金される*4。こうした現金は決済書類や帳簿への記載なしにアダム・ガーディナーが管理する金庫に搬入され、またタロック等が必要とする現金は同様に決済なしに金庫から持ち出される。こうした行為をハンクはアダムに強要し、アダムの上司ブルースター・ペリーも見て見ぬふりをしろとアダムに告げる*5。精神的に追い詰められるアダム。こうした様子に心を痛めたワンダはウィズノフスキに再選委員会の内情を暴露する。また、妻ポーラから真相を話すよう迫られたアダムも、ウィズノフスキに告白の電話をかける。*6


 そんななか、モンクトンは、カール・テスラーがもたらした中国からの招待の知らせに心を躍らせる*7。しかし、破局はすぐそこに迫っていた。カリフォルニアに飛んだハーグランドとタロックの一味は、大統領候補の一人メリマンの事務所に侵入し、警備員に気付かれてしまう*8
 ジャマイカの大使公邸裏の浜辺でくつろぐマーチン夫妻。マーチンの読む新聞には、ハーグランド一味が逮捕されたとの報せ。遠くの出来事だというリンダに、「誰かが長い導火線の先に火をつけたような気がする」と答えるマーチン。
 大使公邸に戻る2人の頭上にはためく星条旗がアップになり、物語は終わる。


修正履歴:
 2013年2月9日修正
  ・最終場面の「大使館裏の浜辺」等の「大使館」を「大使公邸」に訂正
  ・注2を追加。
  ・注3に加筆。

*1:現実:ヘルムズのCIA長官辞任は1973年2月2日。その後、1973年から1976年まで駐イラン大使。

*2:劇中、第2話でホワイトハウスを去った元報道担当(ハンクの元上司)のボブ・ベイリーが、最終回に姿を見せる。ハンク・フェリスとウォルター・タロックが「工作」の相談のためにマイロン・ダンらのもとに出向く途中、路上でボブ・ベイリーとすれ違い声をかける。ボブはロビイストとして活動しているという。ハンクはボブを懐かしむが、そんな様子を眺めていたウォルター・タロックはボブを「負け犬」と評する。

*3:現実:ゴードン・リディの工作計画を巡るミッチェル、マグルーダー、ディーンらの話し合いは1972年1月27日及び2月4日。同3月20日にはミッチェル、マグルーダー、リディにより民主党運動本部盗聴計画が話し合われている。劇中、タロックが総額100万ドルを要するプランをマイロン・ダン達に提示して却下され、後日15万ドルという「現実的な」額に抑えたプランを提示して了解を得る、というくだりがあるが、現実にもリディが誇大妄想的な提案をして却下され、現実的なプランを提示しなおすというやりとりがあったとされる。

*4:現実:ニクソンと大統領再選委員会CREEPへの違法献金では、複数の企業・個人が罰金の対象となっている。例えば、アメリカン造船の経営者ジョージ・スタインブレナー(後にNYヤンキースのオーナー)もその一人である。彼は1960年代前半には民主党に鞍替えしていたが、モーリス・スタンズらからニクソンへの献金をしつこく要求されていたという。結局彼は要求に応じ、ニクソンの個人弁護士ハーバート・カームバックの指示に従い1972年4月から10月頃、3000ドル分の小切手を33通という形でCREEPに資金を提供した。

*5:現実:モーリス・スタンズとヒュー・スローンとの間で実際に劇中のような会話がなされたことは、後にスローンが証言している。

*6:現実:ヒュー・スローンは1972年7月に辞任。ボブ・ウッドワードの情報源「ディープ・スロート」と目されたこともあった。しかし近年、当時のFBI副長官マーク・フェルトが、自身が「ディープ・スロート」であることを公表し、ウッドワードもそれを認めた。

*7:現実:ニクソン訪中は1972年2月。

*8:現実:ウォーターゲート・スキャンダルのきっかけとなった侵入事件は1972年6月17日に発生。

権力と陰謀 あらすじ(5)


権力と陰謀 大統領の密室
第5回「最後通告」
NHK総合 1978(昭和53)年7月30日(日)20時50分〜22時20分


 反戦デモ参加者であふれるワシントンD.C.*1。大統領執務室では怒り狂うモンクトンの命令下、フラハティとタルフォードが事態の収拾に当たる。騒ぎの中、カール・テスラーだけは超然としている。
 ジェニーのもとから電話で呼び出されたロジャー・キャッスルは、警察署で鎮圧を指揮する。そんなロジャーのもとを人権団体のシド・ゴールドが訪れ抗議するが、ロジャーはこれを聞き流し、催涙ガスの使用を指示する。催涙ガスを使った鎮圧の騒ぎにジェニーが巻き込まれ、イーライ・マッギンにより助け出される。
 モンクトンはFBIの働きが悪いと長官エルマー・モースを詰る。アリソンは軍司令官を恫喝し更なる軍の動員を約束させる。ウォルター・タロックはデモ隊中にサクラを送り込み、デモ隊が暴徒化したように演出させて*2捕縛のスピードを上げさせる。


 こうしてデモ隊は鎮圧され、大統領執務室ではモンクトンが側近達に法と秩序の勝利を宣言する。ハンク・フェリスは大統領支持の偽装工作などが評価され、マイロン・ダンの下*3の副責任者として大統領再選員会に転出するよう命じられる*4。さらに、「声なき多数派」による大統領支持のアピールとして、工場労働者がモンクトン支持の証としてヘルメットを贈るというセレモニーが企画される*5


 ロジャーはイーライの家に赴きジェニーを慰めるが、ジェニーの安全より仕事を優先する態度をイーライに非難される。アダム・ガーディナーの家では、妻ポーラが、戦争不拡大という公約に違反したこと、デモ隊鎮圧に強権的手法を用いたこと、テレビ局に圧力をかけポーラの番組を打ち切らせたこと等を挙げてモンクトンを非難する。これに対してアダムは悪いのは側近だとして更にモンクトンを庇い、二人の間の溝は深まる。
 大統領再選委員会で働くことになったハンクは、SECを訪れジェニーの同僚ワンダ・エリオットを再選委員会にリクルートする。後日、ハンクが再選委員会に出勤すると、ワンダが受付で出迎える。ハンクは有頂天で、アレックス・コフィーを部下に雇い、敵対陣営の選挙活動の攪乱を始める*6。そんなハンクのもとに、戦争拡大方針への支持の手紙や電報が偽装だと疑うウィズノフスキから電話が入るが、ハンクはこれを否定する。
 ロジャーはジェニーを休暇旅行に誘い、ジェニーの心はロジャーに戻ったかに見えた。しかし帰路の車中でロジャーはジェニーに仕事を優先したいので当面結婚する気はないと告げる。ジェニーは失望し、イーライを頼るようになる。ロジャーはタルフォードから、モンクトンは性道徳の乱れを嫌悪しスタッフの性的スキャンダルを恐れていること、主要スタッフで未婚なのはロジャーだけでモンクトンがそれを気にしていることを告げられ、一転、ジェニーに結婚を申し込む。しかし、ジェニーはイーライを選びロジャーの求婚を拒絶する。


 ブルースター・ペリーらによる献金獲得が露骨さを増す一方で、モンクトンはマイロン・ダンとフラハティを前に、再選のあかつきには憲法を改正して三選を果たすという野望を語り始める。


 ハンクはワンダとフロリダに不倫旅行に行くが、人目を気にしてホテルの部屋を出ようとせず、ワンダを失望させる。更に、ホワイトハウスに帰ってからは杜撰な仕事ぶりをフラハティや果てはジミー・バードにまで叱責される。自暴自棄になったハンクは、酔った勢いもあり、たまたまバーで会ったウィズノフスキに、大統領支持の手紙や電報は偽装だったことなどを打ち明けてしまう。ハンクの名前は出さないが記事にはするというウィズノフスキに大いに狼狽するハンク。ウィズノフスキに記事にしないよう懇願するが、ウィズノフスキはききいれず、翌朝の新聞にハンクの暴露が掲載されてしまう。大統領執務室に呼び出されたハンクは、自分が漏らしたとは言えず、モンクトンらに漏洩源を見つけ出すようきつく命じられる。


 サリーと破局したマーチンは、最終的にリンダのもとに戻り、ホワイトハウスからプリミラ・リポートの提出を命じられたことを明かす。


修正履歴:
 2013年2月9日修正
  ・数カ所の表現を修正

*1:現実:1970年4月30日のテレビ演説、及び5月4日のケント州立大学での学生射殺事件をうけて、1970年5月8日に大規模デモが組織された。この他にも、1969年11月、1971年5月など、大規模なデモが何度も行われている。

*2:現実:1971年5月の反戦デモの際に、ニクソンとホールドマンが、チャック・コルソンの手配によるデモ隊への攻撃や暴徒化演出の企てについて話題にしている。

*3:現実:ジョン・ミッチェルは1972年2月15日に司法長官を辞して大統領再選委員会の責任者の職に専念する。

*4:現実:マグルーダーがCREEPの副責任者になるのは、1972年春。

*5:現実:カンボジア侵攻テレビ演説後、ニクソン支持の労働者が反戦デモ隊を襲撃する事件なども起き、ニクソンは労働者代表をホワイトハウスに招いた。ニクソン回顧録には、閣議室のテーブルにヘルメットが並ぶ写真が掲載されている。

*6:現実:ドナルド・セグレッティが(マグルーダーではなく)ドワイト・チャピンの下で「汚いトリック」活動を始めるのは1971年9月頃。

権力と陰謀 あらすじ(4)


権力と陰謀 大統領の密室
第4回「不法侵入」
NHK総合 1978(昭和53)年7月23日(日)20時50分〜22時20分


 アンダーソンの葬儀でマーチンは久々にリンダと再会し、一夜をともにする。
 上院ではベネット・ローマンの妻の大使任命の公聴会が開かれ、マーチンからサリーを経由して得た情報をもとにジャック・アサートンはベネット・ローマンを追及する。事態がホワイトハウスに波及することを恐れたモンクトンは、マイロン・ダン、ブルースター・ペリーにロジャー・キャッスルを加えて善後策を協議する。その結果、SECに保管されているローマン関係の書類をマイロン・ダンの下の財務省に移管して捜査を封印することが決まり、SECではイーライ・マッギンの抗議をよそに証拠書類が運び出されてしまう*1。また、ベネット・ローマンを起訴するという司法長官をモンクトンは叱責し、起訴を取り消させる。
 アサートンに関する情報を得るためにFBIを訪れたロジャーは、エルマー・モースから、ベネット・ローマン関係の情報をサリー経由でアサートンに流したのはマーチンの可能性が高いと知らされる。ロジャーから報告を受けたモンクトンは、アサートンを叩き潰すことを命じ、マーチンに対しては大統領執務室まで呼び出した上で無視するという仕打ちで困惑させる。このローマンの件と、書類提出のサボタージュの件を受けて、モンクトンはマーチンの後任候補探しをタルフォードに指示する。


 マーチンはパーティーの席でテスラーから、大統領はローマンの件へのマーチンの関与を知っていると告げられる。マーチンは、ホワイトハウスとの緊張が高まったことに苛立ちをつのらせ、それをサリーにぶつける。その中で、サリーとアサートンが関係を持っているという疑いを口にして、サリーを怒らせる。サリーはマーチンの態度を非難し、アンダーソンの葬儀の際にマーチンがリンダと寝たことを追及する。マーチンとサリーの関係は急速に崩れ、マーチンはリンダのいる自宅を訪れる。


 ホワイトハウスでは、モンクトンに対してアリソンとタルフォードが、戦術核研究に関する情報漏洩源がカリー派=リベラル派の研究者ジョナサン・グリーンであることを報告する。これを受けてモンクトンは、「アカ」のグリーンを叩き潰すことを指示する。ロジャーは内国歳入庁に赴きグリーンの租税関係の粗探しを始める*2。アリソンとタルフォードは、ハーグランドとタロックにグリーンを貶める情報の入手を命じる。ハーグランド等はCIAから機材を借りだし、変装した上で、セントルイスの少年裁判所に侵入。ジョナサン・グリーンの過去の汚点を暴露するため、証拠書類を撮影する*3


 私邸でのモンクトン一行。ハンク・フェリスは「親しみやすい大統領」を演出するために、犬と共に浜辺を散歩するモンクトンの姿をマスコミに公開するが、背広を着込み革靴を履いたモンクトンが波打ち際を歩く姿に記者達は失笑を隠せない*4。ロジャーはバーで声をかけてきた女子大生とアバンチュールを楽しみハンクを羨ましがらせる。
 ワシントンD.C.へ向かうため飛行場に現れたモンクトンの大統領専用車に、反戦学生達が投石をする*5。モンクトンにも車にも当たらなかったが、タルフォードはこれを利用して大統領が大規模な投石を受けたように偽装するため、専用車にわざと傷をつけるようハンクに指示する。
 機中、フラハティは、大統領が戦争の拡大方針をテレビ演説で示すことになった*6とハンクに予告。ハンクはフラハティとタルフォードの下で、この演説に国民から支持が寄せられているよう偽装する作業に着手する。
 テレビ演説を聴いたポーラはアダムに向かってモンクトンへの怒りをぶつけるが、アダムは大統領職の重責を理由にモンクトンを擁護する。
 テレビ演説を切欠にワシントンには反戦デモが押し寄せようとしていた。モンクトンとスタッフは対応を協議し、力によってでも鎮圧することを決意する。


修正履歴:
 2016年6月5日修正
   ・マーチンとサリーの関係悪化についての記述を一部修正。
   ・その他数カ所修正。

*1:現実:前述(第3話参照)のとおり、妻の大使任命という点ではベネット・ローマンのモデルはジョージ・ファーカスであろう。しかし、ニクソンと親しいホテル・カジノチェーン経営の実業家が、資金移動や税務関係で捜査を受けるという点では、ロバート・ヴェスコがモデルになっていると思われる。ジョン・ミッチェルとモーリス・スタンズ(及びSEC議長ウィリアム・ケーシー)は、ロバート・ヴェスコに対するSECの捜査を妨害したとされる。

*2:現実:ニクソンとスタッフは、内国歳入庁(IRS)による調査を政敵の粗探しに利用していた。

*3:現実:ペンタゴン機密文書を暴露したダニエル・エルズバーグについて、鉛管工グループがその精神科医フィールディング宅に不法侵入したのは1971年9月3日。

*4:現実:実際に革靴姿で犬を連れてサン・クレメンテの浜辺を歩くニクソンの映像と写真が残されている。

*5:現実:1970年10月、中間選挙での遊説先のカリフォルニア州サンノゼで、ニクソンはデモ隊から投石を受けている。ニクソンはリムジンのボンネットに飛び乗りデモ隊に向けてダブル・Vサインをして挑発した。

*6:現実:ニクソンは1970年4月30日のテレビ演説でカンボジア侵攻を発表し国民の支持を求めた。