警察署長(スチュアート・ウッズ)


 もう一つ好きなドラマ『警察署長』についても意外に資料がないので、備忘録。


原作:スチュアート・ウッズ『警察署長 Chiefs』1981年
   (邦語訳は真野明裕によりハヤカワ文庫)


1983年11月・CBS
1985年8月・NHK「サスペンス・ドラマシリーズ」

第1話「警察署長・事件発生編・少年なぞの死、またひとり消えた」
   (少年・なぞの死
 NHK放映年月日:1985年8月19日(月)21時40分から23時10分
 舞台:1920年


第2話「警察署長・展開編・相次ぐ死のゲーム、ついに署長も殺された」
   (死のゲーム)
 NHK放映年月日:1985年8月20日(火)21時40分から23時10分
 舞台:1946年


第3話「警察署長・事件解決編・犠牲者総数43、なぞは暴かれた」
   (なぞは暴かれた)
 NHK放映年月日:1985年8月21日(水)21時40分から23時10分
 舞台:1962〜1963年


主要キャスト等

登場人物 Caracter 劇中での地位 演者 Actor/Actress 吹き替え
ヒュー・ホームズ Hugh Holms デラノ銀行頭取;デラノ市議会議長;州上院議員 チャールトン・ヘストン Charlton Heston 小林昭二
フォクシー・ファンダーバーク Foxy Funderburke 養犬家;退役軍人;初代署長志願者の一人 キース・キャラダイン Keith Carradine 日下武史
スキーター・ウィリス Skeeter Willis メインブリッジ郡保安官 ポール・ソルヴィーノ Paul Sorvino 金田龍之介
ウィル・ヘンリー・リー Will Henry Lee デラノ警察初代署長;元綿花栽培農家 ウェイン・ロジャース Wayne Rogers 山本圭
キャリー・リー Carrie Lee ウィル・ヘンリーの妻 テス・ハーパー Tess Harper 萩尾みどり
ビリー・リー Billy Lee ウィル・ヘンリーの息子;州上院議員;州副知事 ティーブン・コリンズ Stephen Collins 天田俊明
パトリシア・リー Patricia "Trish" Lee ビリーの妻 ヴィクトリア・テナント Victoria Tennant (不明)
サニー・バッツ Sonny Butts トーマス署長の死により1946年署長に ブラッド・デイヴィス Brad Davis 野沢那智
タイラー・ワッツ Tyler Watts/Joshua Cole 元陸軍憲兵隊少佐;1962年からの署長 ビリー・ディー・ウィリアムズ Billy Dee Williams 横内正


おもしろさ:


・原作を読んでもテレビドラマを観ても泣ける。テレビドラマの最後はより感動的だが、いずれにしても後味のよい作品というわけではない。犠牲者は43人、他に初代の署長ウィル・ヘンリー・リーは非業の死をとげ、彼を撃ったジェシー・コールは死刑になり、黒人帰還兵の自動車整備工マーシャルはサニー・バッツ一味に殺され、タイラー・ワッツ署長も一時不当に監禁されて殺されかけ・・・


・物語としてよくできている。禍福は糾える縄のごとし。例えば、初代署長のウィル・ヘンリー・リーは2件目の死体発見の後でフォクシー・ファンダーバークを疑うが、証拠がなく、また隣の郡の保安官との間で揉めてしまい苛立つ。この苛立ちもあって、大地主ホス・スペンスの息子エミットの悪事をとがめて黒人達の前で打ち据える。これに怒ったホス・スペンスはウィル・ヘンリーの元使用人ジェシー・コールに地所の沼地での作業を強要し、ジェシーマラリアに罹ってしまう。そして、マラリアの譫妄状態の中でジェシーはウィル・ヘンリーを射殺してしまう。この事件を契機にジェシーの息子のジョシュア(ウィリー)は他州の親戚のもとに逃れて・・・等々。このように伏線がそこかしこに張ってあって、物語が織り上げられていく感じ。


・開拓時代の名残、ゾウムシによる綿花栽培への打撃、KKK、F・D・ルーズベルト第二次世界大戦の帰還兵、黒人の地位向上と残存する差別等々、そしてエピローグにはケネディのダラス遊説まで、時代時代の社会背景が巧みに絡ませてある。政治ドラマとして読むこともできる。


原作とテレビの違い:


・全体としてテレビドラマは原作に忠実に映像化されている。大きな違いと感じるものを下にいくつか挙げる。これ以外にも細かな差異はある。


・原作ではビリー・リーとジョシュア・コール(原作ではウィリー・コール)の友情の描写はあまりないが、テレビドラマではこれが描かれている。具体的には、テレビドラマ第1話最初の方で、リー一家とコール一家の別れの場面でジョシュアとビリーの間で以下のやり取りがある。
ジョシュア
「ダブル(馬の名前)のことは心配ないよ。俺が面倒みるからさ。約束だ、ちゃんと世話するよ。まかしといて。」
ビリー
「毎日人参をやってくれよな。大好きなんだ、こいつ。」
ジョシュア
「盗んできてでもやるから。」


・原作ではタイラー・ワッツ署長はビリー・リーに出自を明かさずに終わる。しかし留置場の常連パイバック・ジョンソンの言葉などから新聞記者ジョン・ハウエルは真相を知る(しかしスクープとなりうるこの情報を彼は封印する)。テレビドラマのラストは、タイラー・ワッツがビリー・リーのもとを訪れて、上に掲げた第1話のやり取りを再現して出自を明かすシーンとなっている。


・タイラー・ワッツの行動がビリー・リーの州知事選決選投票に与えた影響。原作では、投票権のある州下院議員の一人フレッド・ミッチェルの甥が犠牲者に含まれていて、ミッチェルが甥(の遺体)を発見してくれたタイラーに感謝し、他の2〜3人の議員も誘ってビリー・リーに投票することを伝えてくる。結果、ビリーは2票差で選挙に勝つ。テレビドラマでは、フレッド・ミッチェルは出てくるが、むしろ投票終了までタイラーをおとなしくさせるようビリー・リーに要求する役どころである。ラストで、トリッシュ・リーの口から選挙が2票差だったことが述べられ、これを受けてタイラーの「2票のために43人の少年を死なせたようで・・・」といったセリフはあるが、直接の因果関係の説明はない。


・原作でもテレビドラマでも、犯行の背後に性的な動機があるだろうことは述べられている。しかし、テレビドラマでは原作にある性的な要素が排除されている部分がある。例えば、フォクシー・ファンダーバークが馬小屋で自慰をする場面、サニー・バッツは人に暴力を加えることで性的な興奮を覚える(戦場では丸腰の捕虜を射殺しながら、デラノの共進会会場では喧嘩相手を殴りながら、射精までしててます)という描写など。


・第1部で、2件目の殺人の際に、隣の郡の保安官はテレビドラマの方があからさまに非協力的。これによって、管轄の問題が強調され、第3部につながっていく。ちなみに隣の郡と保安官の名前は原作ではトールバット郡のグールズビ保安官で、「弱々しくやつれた感じの初老の男」だが、テレビドラマではジャスティン郡のグランディ保安官で、太った髭面の荒々しい男。


・原作では最後にヒュー・ホームズの死が暗示されるが、テレビドラマにそこまでの描写はない。


その他:


・原作者スチュアート・ウッズは、テレビドラマにFBI統括捜査官ポープ役で出演している。このことは原作邦訳のあとがきにも記されている。


・個人的には一番印象に残っているのは郡保安官スキーター・ウィリス役のポール・ソルヴィーノかもしれない。金田龍之介の吹き替えが(太った人っぽい喉のつまったような声で)ぴったりはまっていたのと、人物造形としても、最初は憎めない部分も見せながら、長年の同じ地位にあるせいか、元々の性格のせいか、徐々に腐敗の度を強めていくようなところが出ていて(あるいは本人は変わらなくて時代の変化にとりのこされていっているのか)、興味深かった。だいぶ後に、オリバー・ストーン監督の『ニクソン』にキッシンジャー役で出ていたが、一目見て同じ役者さんだとは気付かなかった。