ジェレミー・ケンプみたび 続

20日の日記以来間があいてしまいました*1。続きを。「戦争の嵐」「戦争と追憶」における陸軍総司令部ないし参謀本部所属のフォン・ルーン将軍*2という架空の人物ですが、出てくる場面は多くないものの印象的ではあります。ヴィクター・ヘンリーとの出会いもそうですが、ポーランド侵攻だったかソヴィエト侵攻だったかの開始の場面では、彼が電話で作戦開始の指令を発します。また、モスクワ前面で攻勢が頓挫すると前線に視察に遣わされて、グデーリアンと共にクレムリンの塔を遠くに眺めます。口数は少なく常に口をへの字に曲げていて、現状に対して悲観的な眼差しを送りながら軍人としての責務を全うする、といった役どころでしょう。ナチ信奉者でないことは確かですが、ゼークト的な政治的禁欲主義の徒であるようですし、軍事面では初期の成功とその裏面での危うさを確たる形で評価できないままに泥沼にはまり込んでしまうという、国防軍・特に陸軍上層部のイメージを体現した存在なわけです*3。私にとってはいかにもジェレミー・ケンプ的で良い役柄なんですね。
で、私は「戦争と追憶」の後半部分(邦題「戦争の黙示録」の部分)を観ていないので、このテレビシリーズにおけるフォン・ルーン将軍の運命については知りません。1944年の総統暗殺計画にはどう関係するのか、戦争を生きのびたとしても戦争犯罪の追及に対してどのように対応するのか、ヴィクター・ヘンリーとの再会はあるのか等々、非常に興味深いところです*4

注釈

*1:id:makinohashira:20041020#p1

*2:たぶん上級大将。番組と後にビデオを見たのもかなり前ですので階級章等の細かいところは覚えていないんですね。なのでこの辺のキャスト表を見てみたのですが、「Brig. Gen. Armin von Roon」ですので上級大将かと。しかしこのキャスト表自体少々怪しい部分もありますね。他を見ると准将も「Brig. Gen.」と表記してるっぽいのです。

*3:もちろん陸軍の将星たちも一枚岩ではなく、ライヘナウのような政治的な将軍もいました。また非政治的な将軍達もヒトラー及びナチスの政治的手法と成果の内、成果の方については肯定的に見ていたのかもしれません。ヒットラーと将軍達との関係についてはフォン・マンシュタイン失われた勝利」(邦訳は学研)や、それと対比する形で、後に歴史修正主義なんかにも関係してゆくアーヴィングの「ヒトラーの戦争」(第1版の邦訳はハヤカワ文庫)なんかを読みながら考えるとおもしろいと思います。

*4:原作ではフォン・ルーン将軍は最終的に1945年の4月24日頃に包囲下のベルリンを脱出し、生きのびて戦争犯罪に問われるものの刑死はしていません。これらの事実は彼のメモランダム及びヴィクター・ヘンリーの訳注によって語られるもので、彼は物語の中の人間として動き回るわけではありません。なお、原作でのフォン・ルーン将軍の造形はテレビシリーズとは異なっており、軍事的な分析力に卓越しているものの、政治思想的には相当程度にナチズムを肯定する立場に立っているものとして描かれています。「War and Remenbrance」では彼のヴァンゼー会議に関する評論が紹介されますが、ユダヤ人問題をあくまで軍事的・経済的観点から分析しています。