月長石 その2

 月長石 (創元推理文庫 109-1)
 ええと・・・29日の晩から今朝にかけて半徹夜して読んじゃいました。もう高校生じゃないんだから無理したら身体に来るのはわかっているんですけどね。


 全体としてみても結構悲しい物語です。登場人物が4人死んでしまいますし(2人は自然死)。その内の2人は重要な手がかりを提示すると同時に、生き様が特に涙を誘います。ごく少数の人からしか理解されない人生。自殺してしまうメイドの愛の形は歪んでいますが、最も真実に近いところに肉薄しています。もう一人、混血とそれがもたらす容貌ゆえに19世紀半ばのイングランドでは受け入れられない医師(一族の主治医の診療助手)は・・・涙涙。
 が、読後感は決して悪くはありません。これは執事のペタレッジの描かれ方が大きいでしょう。珍しく最後に解説を読んでみましたが、ディケンズを超える人物造形という評価も頷けます。それから、エピローグの月長石の発見のくだりも、映画のエンディングを観るようで、現実味はないものの妙な余韻をもっています。


 推理小説としてはどうか。私は面白いと思いました。「誰がやったか(フーダニット)?」が焦点なのですが、証言者(手記を寄せる人物)により矛盾する人物評価・事実評価が、手がかりを読者に与えつつも犯人をうまく隠蔽しています。最終的には矛盾の無い結論が導かれますし。謎自体は複雑ではありません。しかしそんな謎でも800頁を読ませる力は十分にあるんですね。これは作者の構成力なのでしょう。


 あの〜、ちなみにこういう小説読むと解りますけど、メイドってご主人様(の階級の人)に馴れ馴れしく言葉かけちゃいけないものなので、何とか喫茶なんてのはナンセンスなんですよね。え?夢の無い話ですか?そうですか。