ジェレミー・ケンプ再び

ジェレミー・ケンプについては既に一度触れた*1。厳つい風貌からか、軍人さんや独墺系の役を結構やっている。例えば「シャーロック・ホームズの素敵な挑戦」（1976）では、薄幸の女性ローラ（ヴァネッサ・レッドグレイヴ*2）をさらって行く敵役、誇り高く好色な貴族、ラインスドルフ男爵。ぴったり。この映画は結構おもしろくて、麻薬中毒が進みモリアティー教授の幻影に怯えるホームズがウィーンでフロイト博士の治療を受けて復活するという荒唐無稽な話なのだが、ロバート・デュヴァル*3がワトソンだったり、モリアーティ教授*4がサー・ローレンス・オリヴィエ*5だったりする。
そして「スペース1999」（1975-1976）*6。日本では1977年にTBSで放映。風変わりで偏屈な少年だった私は毎週楽しみに観ていた。ケンプはレギュラーではなく、第13話「宇宙の破壊者、核爆弾船」（原題：VOYAGER'S RETURN）にゲスト出演していた。地球の軌道を離れ宇宙を彷徨う月、ムーンベース・アルファに未確認飛行物体からのメッセージが入る。宇宙船の名はヴォイジャー。地球の宇宙開発局が太陽系外の惑星探査のために打ち上げた無人宇宙船だ。この宇宙船がの推進機構である「クエラー・ドライブ」は、中性子の力により周りの全てを破壊しながら進む（！）という凶悪な代物*7。ヴォイジャーには惑星探査の貴重な記録がある。しかしクエラー・ドライブを停止させてアルファに着陸させるには、暗号による命令が必要だ。この凶悪なドライブを真摯に開発したクエラー博士（ジェレミー・ケンプ）は、地球上での２号機の実験中の事故による大惨事の後、リンデンと名を変え、アルファに技師として務めていた。彼ならば暗号回路を作ることができる。ヴォイジャーが月に迫る中、リンデンことクエラーは暗号回路を完成させるが・・・。
科学者としての誇りを持ちながら、自らが生み出したクエラー・ドライブとその実験中の事故がもたらした死に苦悩する。加えて科学者特有の無邪気さも備えていて・・・と、なかなか難しい役どころである。些か強引だが、先に触れた「冬物語」に通じるものがあるとも言える。しかも、どう考えたって筋書きに無理があるのを演技で補うのは難しいし、１時間もののテレビドラマだからそもそもじっくりと演じられるわけでもない。そんな中で、いぃ仕事してますよ、ケンプさん。
でもう一点、リンデンは大き目のベントのパイプをずっと手に持ってて*8、これがガキだった頃から私にとっては非常に印象的だった。彼の孤独と苦悩がそこに表現されているように感じたからだと思う。ＤＶＤで改めて観てもこの印象は変わらない。リンデンはラスト近く、机にこのパイプを遺して去る。別にパイプがこれ見よがしに大写しになるわけじゃないんだけど、泣けてくるのだ。
なお上でも触れたようにこの「スペース1999」、第１シーズン24話と第２シーズン22話がそれぞれＤＶＤ化されている。第１シーズンと第２シーズンでは全く雰囲気が違うので要注意。
　

ジェレミー・ケンプについてはあと１、２回分書きたいことがある。

注釈

*1:Jeremy Kemp：id:makinohashira:20040809参照。

*2:Vanessa Redgrave：「オリエント急行殺人事件」（1974）、「ハワーズ・エンド」（1992）、え？「ミッション・インポッシブル」のあの食えない婆さんってレッドグレイヴだったの？

*3:Robert Duvall：「地獄の黙示録」（1979）のヘリコプター騎兵部隊の突撃シーンで有名なキルゴア中佐役や、「ゴッドファーザー」（1972）の弁護士役

*4:この映画では、犯罪界の帝王というのはホームズの妄想で、ホームズの家庭教師を務めていた一般人ということになっている。

*5:Sir Laurence Olivier：「ヘンリー５世」（1945）や「ハムレット」（1947）で名をなしたイギリスの名優。シェークスピア劇の他にも「スパルタカス」（1960）、「空軍大戦略」（1969）等々。

*6:「謎の円盤ＵＦＯの」ゲリー・アンダーソンが製作したＳＦテレビシリーズ。1999年、月の裏側に集積されていた核廃棄物が大爆発をおこし、月は月面の基地ムーンベース・アルファとその隊員300名余りをのせたまま、地球の周回軌道を外れしまう。彼等を待ち受けるのは・・・。この番組については機会があったらまとめておきたい。なお、春草氏のページのフリートークのコーナーにまとまった解説がある。

*7:んなもん宇宙に飛ばすなよ、という当然のツッコミは番組後半で「やっぱそうじゃん・・・」という結果となってしまう。

*8:メーカー等は不明。咥えているのはＤＶＤで見る限り確か１シーンのみで煙も出ていない。