不連続殺人事件

坂口安吾「不連続殺人事件」(角川文庫・1974年)を読んだ。ISBN:4041100135
昭和22年に書かれた作品で、ちょうどその頃に起きた事件というという設定である。戦中の疎開の折に友人の友人、愛人の愛人という感じで集まった作家や芸術家達が、再び疎開先の屋敷に顔をそろえる。錯綜する人間関係、様々な感情が渦巻く中で、次々と殺人が起こる。人間や情景の描写に凝ったところがあるわけではなく、次々と事件が起こる割りには筆の進みは淡々としているが、密室あり、アリバイ崩しありと、多種多様な趣向がこらされていて、飽きることはない。探偵の推理の過程も納得のいくものだった。
ただ、癖のある登場人物が多数出てきて、それぞれに本名の他に渾名を持っており、しかもそれらの人間関係の概略が冒頭の20頁ほどで一気に説明されるので、最初の内は誰が誰だったか中々一致しなくて読むのに苦労するかもしれない。滅茶苦茶なんだもの。こういうのをアプレゲールっていうのね。文体もそれ風だし。でも、読んでいて、白州正子や青山二郎、そして小林秀雄といったあたりのサークルって、こんな感じだっのかもな、などと変なところと結びつけて楽しむこともできた。


注釈