スコトフスキー

ストコフスキー/ナショナル・フィル

CBS MBK 39498

中学生の頃からレコード選びの参考にしていた本に諸井誠「交響曲名曲名盤100」(音楽之友社・1979年)がある*1ハイドンからメシアンまで28人の作曲家の100の交響曲を選んで、見開き1曲、それぞれについて何枚かの推薦盤を提示してある。記述内容・スタイルは様々(変化をもたせるために敢えて統一していないのだろう)で、曲や作曲家のエピソードと演奏への言及を中心に、随想風のものもあればオヤジ的な脱線もある。結構楽しい本で今でも時々読み返すことがある*2。というか、私の知識はこの本からさほど発展していないというのが正直なところ。
メンデルスゾーンのイタリアについては、バーンスタイン、セル、カラヤンクレンペラー等を挙げつつ、モノラルのトスカニーニを凌ぐものが未だ出現せず、と嘆いたあとで、次のような記述で締めくくられる。少々長めだが引用したい。

・・・・・・とまぁ、こう思っていた所へ、リストアップしていなかった一枚が忽然と登場。時まさに真夜(原文ママ)。死者の復活だ。ストコフスキー。一九七七年、死に三ヶ月先立っての録音だそうで、お義理に聴いてみたが、驚いたことにこれが凄い名演。ステレオ盤から選ぶなら、文句なくこれがトップだ。何という瑞々しさ、何という鮮明さ、そしてスコアへの忠誠。九五歳の大老に脱帽!最敬礼!!(同書79頁)

私はこれに見事に煽られて、ストコフスキー盤を手にしたわけである。しかし、この煽り文句は全く間違っていない。生気に満ちた演奏ってこういうものなんだと納得できる。柔軟で、しなやかで、艶やかで。この録音の時は95歳になるのかな?信じられない!
ストコフスキーというと編曲・改竄や極端なデフォルメという方面で有名だったりするけど、そうでない演奏も多くあるわけで、この演奏もその一つ。しごくまともで正攻法。


注釈

*1:音楽之友社の新書「ON BOOKS」には同じシリーズで著者の異なる管弦楽・協奏曲名曲名盤、バロック名曲名盤などがあり、いずれも著者を代えて1990年代に「CD名曲名盤100」という新しいシリーズになっていたと思う。なお、皆川達夫氏の「バロック名曲名盤100」は同じ著者による改訂・改題版「ルネサンスバロック名曲名盤100」が1992年に出ている。これも情報は古くなりつつあるけど、お薦め。

*2:名曲名盤的な本は世にあまたあるわけですが、この本はほのぼのしてて読んでて楽しいので。ちなみにマーラーより後の作曲家については、磯田健一郎「ポスト・マーラーのシンフォニストたち」(音楽之友社・1996年)も気軽に読めて役に立つ本だと思う。