ジェレミー・ケンプみたび

ジェレミー・ケンプについて触れるのは三度目です*1。8月28日の日記では「スペース1999」について書きましたが、今回もまたマイナーなところで「戦争の嵐」とその続編についてです。以下、細かい間違いがあるかもしれませんが、追って直していくとしてとりあえず備忘的にまとめておきましょう。
アチラではDVD出てます

Winds of War/ [DVD] [Import]

Winds of War/ [DVD] [Import]

「追憶」の方の第2巻も
War & Remembrance 2 [DVD] [Import]

War & Remembrance 2 [DVD] [Import]

「戦争の嵐 The Winds of War」はハーマン・ウォーク*2の原作による1983年制作(?)のアメリカの長編テレビドラマ、日本ではテレビ朝日系で放送されています*3。本国では37%くらいの高い視聴率だったようですが、日本では12%程度だったと記憶しています。かつて5巻組のビデオも出ていました。第二次世界大戦直前から真珠湾までを描いています。
この続編が1988年制作(?)の「戦争と追憶 War And Remembrance」で、こちらは日本未放映。ビデオが東北新社さんから「戦争と追憶」「戦争の黙示録」の二部に分かれて出ていたと思います。こちらは真珠湾から終戦まで。残念ながら私はこの「戦争と追憶」の後半、すなわち「戦争の黙示録」の方は観ていません*4
この「嵐」と「追憶」は、ロバート・ミッチャム演じる主人公、海軍中佐*5ヴィクター・ヘンリーとその一家が戦争に翻弄される姿を描いています。ヴィクター(パグ)・ヘンリーは海軍武官としてベルリンに赴任しますが、やがてルーズベルト大統領の目にとまり、彼の軍事関係の「目」として世界中を飛び回ります(対ソ援助の交渉使節随行して1941年冬のモスクワに行きスターリンと面会したりもします)。その過程でイギリス女性パメラ・タズベリー(ヴィクトリア・テナント)と恋に落ちたり。そしてようやく海上勤務への復帰の希望がかなえられ真珠湾に向かいますが・・・。妻ローダ(ポリー・バーゲン)は夫の不在中に科学者パーマー・カービー(ピーター・グレーブス)と密通。長男ウォーレン(「嵐」ではベン・マーフィー/「追憶」ではマイケル・ウッズ)は空母ヨークタウンでパイロットをしていますが、ミッドウェーで戦死。娘については省略。ヴィクターと並ぶ物語の中心である次男バイロン「嵐」ではジャン=マイケル・ビンセント/「追憶」ではハート・ボックナー)は、ユダヤ人女性ナタリー・ジャストロウ(「嵐」ではアリ・マッグロウ/「追憶」ではジェーン・シーモア)と結婚します。ヨーロッパで戦争が始まるとナタリーは子供とともに叔父である歴史学者アーロン・ジャストロウ博士(「嵐」ではジョン・ハウスマン/「追憶」ではサー・ジョン・ギールグッド)に従いイタリアに残りますが、脱出の機を失い、かつて博士の教え子だったゲシュタポのヴェルナー・ベック(ビル・ウォリス)に付けねらわれ、やがてゲットーから強制収容所へ。バイロンは妻子を気にかけつつもアメリカに戻り、潜水艦乗りになります。このヘンリー家の人々に絡む人たちの中でも、ナタリーの親戚のベレル・ジャストロウが「屋根の上のバイオリン弾き」のハイム・トポルだったり、「追憶」ではパメラの父でジャーナリストのアリステア・タズベリーがロバート・モーレー*6だったり、長男ウォーレンの妻ジャニスが当時無名のシャロン・ストーンだったり、いろいろ面白いんですね。
このシリーズ、「嵐」の方はまだ希望を抱かせるような終わり方をします*7が、「追憶」の方は(最後まで観ていないわけですが原作を読む限りでは)どうにもならない悲劇です。「嵐」の最大の皮肉は、ヴィクター・ヘンリーがルーズベルトに欧州の戦争に介入するよう奨めた結果、太平洋の防備が不十分になり、それが真珠湾に結びついてヴィクター自身が艦長として着任予定だった艦を失ってしまう点です。ヴィクターは真珠湾直後に太平洋艦隊司令長官キンメル提督のもとに出頭しますが、キンメルはヴィクターに、欧州戦域への援助に物資その他を奪われた結果こうなった、と愚痴をもらします。実は欧州重視戦略の影の立役者がヴィクターであることを知らずに。「追憶」は「戦争の終わりは追憶から始まる」というのがテーマですが、ヴィクターも含めてヘンリー家の人々は戦争に翻弄される小さな存在であり、しかし理性を保とうと努力する人々(ヴィクター、バイロン)、流される人々(ローダ)、苛酷な状況に否応無く直面させられる人々(ナタリー)が描かれます。ヴィクターは旗艦への雷撃を防ぐため自分の艦を楯にして、査問会にかけられたりもします*8
さて、このようなヘンリー家の物語と並行して、米英独伊*9それぞれの指導部の内幕が描かれるのですが、これもこのシリーズの見所です。ソックリさんぶりも含めて。中でも、ラルフ・ベラミーの演じるF.D.ルーズベルト大統領は秀逸です。政治家としての信念と、皮肉とユーモアと不健康。もちろん私自身が実物を見たわけではないのですが、こういう雰囲気の人物だったんだろうな、と。それからヒトラーと幕僚達。「嵐」と「追憶」でキャストがだいぶ違っていて、「嵐」の方が全体として描き方が暗い感じです。ヒトラーに関しては「嵐」でのギュンター・マイスナーも「追憶」でのスティーブン・バーコフも、熱病的で静と動の落差が激しい独裁者像を提示していました。幕僚の中ではそんなヒトラーに振り回される陸軍総司令官ブラウヒッチュ元帥を演じるヴォルフガング・プライス*10が目をひきます*11
で、ジェレミー・ケンプです。彼は「嵐」「追憶」を通じて、ドイツ参謀本部所属のアーミン・フォン・ルーン上級大将を演じています。フォン・ルーン将軍は架空の存在であり、歴史の重大な場面に立ち会うことになっています*12。ヴィクター・ヘンリーが武官としてドイツに赴任する客船上で彼と出会うのですが、総統誕生日を祝う席でナチス式の敬礼をしないなど、伝統的なプロイセン軍人として描かれています。


「戦争の嵐」原作The Winds of War
「戦争と追憶」原作War and Remembrance
(続く)

*1:id:makinohashira:20040809#p1及びid:makinohashira:20040828#p3参照。

*2:ケイン号の叛乱」などで有名。「戦争の嵐」についてはハヤカワ文庫に翻訳あり。

*3:題名の類似する「戦争と嵐」という映画がありますので注意。

*4:「戦争と追憶」の方は近所のレンタルビデオ屋さんに奇跡的に置いてあったので観ました。さらに何故か「戦争と追憶」の第1巻のみ、中古ビデオ屋さんのワゴンで50円で売っていたので買ってあります。

*5:ドラマの進展に従って出世しますが、最初は中佐だったかと。

*6:私は「料理長殿、ご用心」の美食家のデブちんの役でこの人を覚えました。ちなみにこのアリステア・タズベリーはハリソン・E・ソールズベリーがモデルなのだとか。

*7:ヴィクターが崖の上からヨークタウンの出航を見送りながら日独打倒を誓う姿からパンしていくのがラストシーンだったと記憶しています。

*8:それだけでなく作戦計画段階での司令官への適確な進言が不採用になった点も絡めて、だったと思います。

*9:日本人はほとんど出てきません。

*10:この人もドイツの軍人を演じさせたら右に出る者なしですね。「史上最大の作戦」のペムゼル少将とか。

*11:彼と対になる陸軍参謀総長フランツ・ハルダーは、「嵐」ではヴェルナー・クラインドルが、「追憶」ではバリー・モースが演じています。前者はよく知らないのですが、写真の上で似ているのは前者でした。

*12:原作では、ヨーロッパと太平洋の戦況及びドイツの戦争指導についてはフォン・ルーン将軍が執筆したという設定のメモランダム「World Empire Lost」「World Holocaust」及び「Hitler as Military Leader」等(いずれもヴィクターが英訳したという設定)が引用される形で説明されていきます。ちなみにゲルト・フォン・ルントシュテット元帥と名前が似てなくはないですが全く別の人物です。