レムの「捜査」読み終えて

スタニスワフ・レムの「捜査」、結局通勤途中の電車の中でマーラーの9番など聴きながら読み終えました。最後の12頁程でしたが、ゆっくりと何回か読み返しながら。提示された様々な問題の一部については一応の解釈が与えられますが、非常に不完全で不安定なものです。例えばグレゴリイ警部補の隣の部屋(家主が住まっている)から聞こえる怪音は説明されますが、グレゴリイ自身の部屋のラップ音的なものや「気配」に関しては明確な解釈は示されません。単にグレゴリイが精神的に疲労していたから?物語の展開の中心となる一連の事件についても、疑問点を残しながら終わります。でもこの不安定さは不愉快といった感覚にはつながらないんですね。
もう少し考えてみましょう。そもそも人の世の出来事全てについて論理的・科学的な説明がなされうるというのが幻想に過ぎないこと、しかし人は説明・解釈(=安定)を求めて彷徨うものだということ、それは滑稽に見えるかもしれないけど真摯な営みであること、私が理解できたのはそこまでです。レムがこうした「人間」を否定しているのか肯定しているのか判りません。ただ、私は冷静さとある種のニヒルさの影に暖かい眼差しを感じられた気がしました。サルトルのようでサルトルでない(ベンベンっ)みたいな。月並みな表現ですけど、一瞬足元の地面が軟化してズブズブと全身が飲み込まれそうになる感覚で、ゾッとするんですが、でも最終的に根源的な恐怖というか絶望までは行き着かない。
全く毛色の違う小説ですが、カート・ヴォネガットでしたか「青ひげ」というのがありまして、あれの読後感にどこか似ていました。「青ひげ」は「捜査」のように不安定な状態では終わりませんし、作者の人と社会に対する見方も全く違います。でもまあ私にとっては何となく、なんです。
何とも取り留めのない感想ですが、こんなところで。
 

青ひげ (ハヤカワ文庫SF)

青ひげ (ハヤカワ文庫SF)

コメントをいただいたtubrabellsさんのblog(レムの「捜査」を扱った項目)
http://blog.goo.ne.jp/tubrabells/e/44a46523904dfef3516ec6ef7e805ed4