クレンペラーのライブ(素晴らしい)

 んで、日記はサボっておきながら、CD屋さんに出かける暇はあったりして、いつの間にか買いました、オットー・クレンペラーウィーン・フィルとのライブ8枚組。
 

Klemperer: Live Broadcast Performances

Klemperer: Live Broadcast Performances

 まず最初にマーラー交響曲第9番を聴いてみます。やはりですねえ、クレンペラー、イコール晩年の遅くて深いテンポと重厚な響きという画一的なイメージで語ってはいけませんね。もちろんここでの演奏も立体的なズッシリした演奏なのですが、マーラーの第1楽章には様々な表情を伴った歌があります。そして、歌っていくうちに分裂的になりかける様々な楽想をきっちりとまとめる構築感も。特に前者はウィーン・フィルというオーケストラにして初めて可能になったのかもしれません。クレンペラーのスタジオ録音に聴くフィルハーモニア管弦楽団は非常に明敏で優秀なオーケストラですが、ウィーン・フィルのような、何と言うか、指揮者の意図を的確に察知して補完してくれるような高度の自発性までは備わっていなかったのではないでしょうか*1
 そして第4楽章!何と透明で深い響き。録音状態は決して万全ではないものの、透明な水を湛えた深い深い淵が横たわっています。静かでありながら、音楽の流れは澱むことはありません。無機的というのではなく、人の心の中の無限の虚無を感じさせます。これはバーンスタインやバルビローリから感じるものとは違いますし、ギーレンのような冷たく醒めた感覚とも異なります。弦楽器と木管の潤いのある響きの中に「無」が広がっているのです。

*1:マーラーではありませんが、各種のライブ録音がリリースされているバイエルン放送交響楽団は、クレンペラーの意図をよく汲んでいるようで、陰翳に富んだ素晴らしい演奏をしています。