クレンペラーもっと

 「パイプの煙」シリーズみたいになってきました。でもまだまだ続きます、オットー・クレンペラー指揮ウィーンフィルの1968年ライブ。8枚組のBOXには無限の宇宙が、ってのは言い過ぎですが。今のところ一番のお勧めはマーラー交響曲第9番第4楽章とリヒャルト・シュトラウスの「ドン・ファン」です。一番イケてなかったのはバッハのブランデンブルク協奏曲第1番でして、これはまた後日触れるとしましょう。
 今日は2枚目のベートーヴェンシューベルトをじっくり聴いてみました。


 「コリオラン」序曲は遅いテンポにオーケストラが対応しきれていない部分が目立ちます。ところどころ音楽が薄くなってしまっていますね。結構テンポが揺れていて聴く側は楽しめるのですが、弾く側は特にリタルダントがかかると間延びしてしまう感じで大変そうだな、と。


 同じくベートーヴェン交響曲第4番は凄い。月並みな言葉しか出て来ませんが圧倒されます。古典じゃなくて完全に後期ロマン派に聞こえます。カルロス・クライバーあたりの軽快な演奏や古楽器系の素朴さを感じさせる演奏とは、全く別のベクトルをもった演奏です。遅〜いテンポで細かなニュアンスまで克明に描き出されて、何と言えばいいんでしょうか、ミケランジェロの絵画を制作当初の状態に戻したらこんな感じじゃないかな*1。ううん、それだとミケランジェロが後期ロマン派だみたいなお馬鹿な感想文になってしまう・・・でも何となくそんな感じ。
 さすがにずっと聴いてるとモタレル・・・。


 シューベルトの「未完成」は例の「シェーン!(schoen!)」が聞こえない演奏。どう聴いてもDGと同じだよなぁ。ま、それはいいとして、わたくし的にはクレンペラーの「未完成」の中ではこれが一押しでしょうか。スタジオ録音の完成度を良しとする意見もあるでしょうが、このライブには他に得がたい歌と陰翳があるように思えます。カール・ベーム晩年の「未完成」ライブのような荒涼とした風景ではなくて、古典派寄りの真っ当な解釈にメランコリックな「揺れ」が加わって、何度も繰り返して聴きたくなる音楽になっています。紅葉の湖に一人ボートを浮かべてパイプを喫っているような気分、でしょうか。

*1:たぶん今見るよりも色彩が鮮明でより奥行きがあるんじゃないかという想像に基づいています。