藤堂高虎
出張のお供に新書を購入。
- 作者: 藤田達生
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2006/03/17
- メディア: 新書
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本を買って損をしたと思うことはあまりないのですが、この本は・・・テーマは面白いのに・・・内容が十分に整理されておらず、かつ論理性にも欠けています。
時系列に沿った整理がなされているわけではなく、かといって事象毎の整理も徹底されていない。話が脇道に逸れるのは悪いことではないはずですが、その逸れ方と頻度が問題です。いろいろ書きたいことがあるのでしょうか、もう少し頭の中をスッキリさせてからにした方がよいのではないのでしょうか。
史料の裏づけがあるのかどうかもわからない推測の多さにも閉口します。「だろう」「違いない」の連続。酷いのは二重の推測とそれに基づく断定。例えば34〜35頁にはこんな記述があります。
当時、播磨に派遣されていた秀吉は、天正五年六月に二百二十人もの家臣に対して、安土城の「天主」作事のための派遣を命じているが(「斑鳩寺保管文書」)、この中に若き日の高虎がいた可能性は高い。この時の城づくり・町づくりの経験は、後にふれるように、高虎の築城や都市設計に影響を与えたようだ。
「可能性は高い」ことを示すためには、当時秀吉の家臣団がどのような構成であって高虎がどの位置にあり、安土に派遣されたのがどの層なのかといった論証が必要なはずです。それを示さずに「可能性」を語るのはナンセンスです。そのナンセンスな推測は次の文では「この時の・・・経験は」と事実になってしまい、それを受けてさらに「影響を与えたようだ」という推測がなされます。築城と都市設計を含む後の藩領経営の話はこの本の大きな柱の内の一つですが、こんな記述に支えられた話の展開はそれを追うのも苦痛でした。
何か一度疑問を持ってしまうと駄目ですね。例えば大阪冬の陣・夏の陣の評価について、この著者は従来の見方には与しないと高らかに宣言して論を進めていきますが、大阪方とキリスト教勢力の結合の可能性とか、幕閣内での対立との関係なんて、随分前から言われていることですよね。何だかこの著者独自の説みたいな書き方ですが、それってどうなんでしょうね。
最近は新書の種類も増えて粗製濫造なんでしょうか。ある程度の学術性すらも求められないのでしょうか。