遍歴2

 思えば私の万年筆遍歴(というほど大袈裟なものではありませんが)はセーラーのキャンディから始まったのですね。キャンディ、何処かにとってあったかな?
 ともあれ、中学時代はメインの筆記具はやはりシャープペンシルでした。高校に入ると科目と場面によって使い分けが始まります。当時科目としては世界史が大好きで、サブノートも完璧に作ってありました。今でも7冊身近に置いてあるのを見返してみると、黒かブルーブラックの万年筆で書いてあります。表や地図は色鉛筆併用。じっくり作りこんであります。この頃が一番勉強していたのかも。
 苦手だった数学は証明問題を書いては消し書いては消ししてましたから、シャープペンシルが主力でしたね。そういえば私は不器用なので未だにあのクルッとペンシルを回す技が出来ません(笑)


 さて、高校で使っていた万年筆は、これまた父親にもらったパーカー(Parker 45)とどこのものか判らない無名のものの2本だったと思います。キャンディはインクが漏れて手が汚れたりと、何となく使い勝手が悪かったので引退。銀色のキャップに矢羽形のクリップ、黒のボディーの小ぶりなパーカーが、背伸びしたい年頃の私にはぴったりときました。
 パーカー45に関しては思い出があります。一年生のときですからパーカーをもらってそんなに経たない頃です。常と違うところをお掃除しましょうという校内一斉清掃の際に、ワイシャツ姿で運動場の隅の溝をさらっていたのですが、止せばいいのに胸ポケットにパーカー45を挿してたんですね。で教室に戻ったら無いわけです、父親からもらってようやく書き味にも慣れてきた大事なパーカーが。んなもん掃除の時に胸に挿しておくなよって感じですが。放課後、掃除してた辺りに探しに行きました。・・・見当たりません。ショック。暗くなるまであちこち探しましたがとりあえず発見できず、失意の内に帰宅。諦めるしかありません。同じものを買おうか?・・・パーカー45は高くはない万年筆ですが高校生の小遣いでおいそれと買えるほどの値段ではなかったと思います。無名万年筆で我慢です。父親にはなくしたことは内緒です。
 そんなこんなで(どんなやねん!)半年ほども過ぎた頃でしょうか。帰宅時に偶然運動場の隅の溝のところを通りかかったのです。普段はそんな蛇でも出そうな辺鄙なところは通らないのですが。パーカーのことはずっと気になっていましたので、自然と視線を下に落として・・・ありゃ、ありました。泥にまみれた万年筆が、水の枯れた溝の中に。銀色のキャップが鈍く光っておりました。いやあ、嬉しかったですね。急いで家に帰って入念に水洗いして、カートリッジをさしたら問題なく使えました。
 教訓:身体を動かすときはワイシャツの胸ポケットに物を挿すな


 このパーカー45君は高校3年間だけでなく大学とプラスアルファの長期にわたって私の戦友でした。いつもブルーブラックのカートリッジで。他の筆記具とゴチャッと筆入れに入れたりしてたので傷だらけになり。時には用心しながら胸ポケットに挿して、でもインクが溢れてワイシャツを汚してしまったり。大学の願書のペン書きしなきゃならない箇所もこれで書きました。・・・何もかもみな懐かしい。
 今は水洗いされた状態でペンスタンド代わりの大きなマグカップの中で、次の出番を待っている状態です。次の出番。そう。子供が大きくなったら2番目の万年筆として贈ってあげるつもりです。傷だらけの万年筆なんか喜ばれないだろうけど。