遍歴4

 セーラーのキャンディ、Parker 45、Montblanc 146と、結局父親から貰った万年筆で15年ほど過ごしたわけです。あ、キャンディは自分で2〜3本買い足したか。その3で書いたように、特にパーカーとモンブランは大学生活プラスアルファの時期の戦友だったわけです。幸せな万年筆ライフ。


 そんなある日、今から10年ほど前でしょうか、何かの雑誌でだったと思うのですが、万年筆が紹介されているのを見てしまいました。これまで使っていたパーカーともモンブランとも違う、マーブル模様の万年筆。ウォーターマンのLe Man 200(ル・マン200)というシリーズのラプソディ・ベルベット。紺、深紅、濃緑の三種類が出ているようです。当時の私にとっては新鮮な驚きでした。こんな万年筆があるんだ、と。Watermanは万年筆を語る上で欠かせないメーカーなんですよね。でも当時の私はそんなことも知りませんでした。
 美しい。欲しい。でもプラスアルファを終えて就職しようかという時期だったので、お金があり、あせん。貯めます貯めます、で貯めたお金を持って京都河原町丸善に。ありましたありました。三色揃って。濃緑が一番しっくりくる感じです。いずれは三色全部揃えたいな、などと妄想しながら、とりあえず濃緑で書き味を試します。主にメモ帳への記入に使うつもりでいたので、ペン先はEF。うわぁ(絶句)・・・細いのにスルスル気持ちよく書けます。何じゃごりゃ〜っ!漢字も仮名もアルファベットも自在。円転滑脱。適度な重みをもった細身のまっすぐな軸は、意外と握り易い。所々が螺鈿のように輝く深みのある緑は派手過ぎず地味過ぎず。買いますっ!初めて自分で買う高級万年筆っ!興奮です。
 家に帰ってウォーターマンのブルーブラックのカートリッジを装着、試し書きの時の書き味が甦ります。快感。この書き味はエロティックですらあります。


 この時の感動が私の万年筆への傾斜を決定的にしました。
 パーカー&モンブラン時代は万年筆の使用頻度はそこそこだったのですが、ウォーターマン購入以降は、カーボン複写式の用紙への記入と赤での校正以外はほとんど万年筆しか使わなくなってしまいました(でも不適切な状況で万年筆を使うと後述の落下事件のような不幸を招くわけですが)。


 ほとんど、といっても、この頃には長文の原稿類は主にパソコンで書くようになっていました。筆記具の使用はメモ帳への記入やミーティングの際の記録とりが主。ですので線が太すぎるモンブランの出番は減って、ウォーターマンが常用ペンの座を獲得。何をするにも持ち歩きました。購入時の「三色揃えて」という妄想は吹き飛んで、「この一本さえあれば」という気分。その後、万年筆マイブームが到来した際に深紅の軸のものを買い足して、紺も探しましたが、既に三色とも廃盤になって久しかったのか、身近には見かけませんでした。御徒町のあたりを探せば手に入ったとは思います。でも緑軸の満足度の高さに、そこまでしてみる気にはなりませんでした。


 不幸にも一度机の上から床に落下させて、ペン先を駄目にしてしまい修理に(涙)。退院してきたウォーターマン君はペン先を交換されていて・・・残念なことに落下前のペン先の感動的なまでの滑らかさは失われてしまっていました。決して書きにくいということはないのですが、最初があまりにも素晴らしすぎました。