The Historian 読了

 The Historian
 コストヴァの「ヒストリアン」を読み終え(かつ聴き終え)ました。
 ロッシ発見か?の後の筋はネタバレになりますから控えましょう。79章までで1954年の探索と1970年代の探索の二つにはケリがつき、ある程度の後日談も語られます。ここまでで十二分に哀しい余韻に満ちた話なのですね。特にロッシの最後の手記の末尾は、「善きこと」への信仰を謳っていて感動的ですらあります。が・・・エピローグがついてまして・・・これがいま一つよく解らない。
 おそらくはいつの時代にも(ドラキュラに代表される)「邪悪 evil」は存在していて、誰かがそれに立ち向かうことが必要なんだ、みたいな感じなんだと思いますが。特に上に書いたロッシの手記との関係ではそういう解釈になりそうです。また、冷戦の只中でその波に翻弄される「私」の父とヘレンの姿や、ドラキュラのロッシに対する語り、そして学究の道を歩むのをやめて平和活動に身を投じた「私」の父の決断からは、日本への原爆投下、ハンガリー動乱ユーゴスラヴィア崩壊後の紛争、その他諸々含めて、人間の中に存在する邪悪に対する作者自身の問いかけを読み取ることもできます。
 でもそれだったらエピローグまでは不要なような気がします。
 あるいは単純に、ドラキュラは不死者・吸血鬼の源泉ではなく、源泉はそれ以前から別にあって(ドラキュラには西方の修道僧により伝えられたのであり)、仮にドラキュラを倒しても吸血鬼の存在を消し去ることはできない、というだけのことなのかもしれませんが。


 何にしろ疑問点がいくつか:

  1. Getzi一族に属していることは何かの意味を持つのか?
  2. ドラゴンの図章(版画)入りの本を手にする「選ばれた者」の中に、例えば何故に類まれな才能に恵まれたヘッジスは入っていなかったのか。逆に何故トゥーグット・ボラ教授は入っているのか。ボラ教授は、能力があるとしても(あるいはそれ故に)最も不適切な人物ではないのか?
  3. 吸血鬼化している大学図書館司書もドラゴンの本を手にしていたのだろうか?
  4. ロッシは何故ルーマニアの記憶のみを忘れたのか?(イスタンブールギリシャのことは忘れていないのに)そういう効力を有する飲み物だったのだろうか?
  5. ロッシはボラ教授の手紙での問い合わせに対してイスタンブールでのことも記憶にないと答えているが、これは最初の手記の存在とは矛盾する。こちらは忘れておらず恐怖ゆえに隠したということでよいのだろうか?
  6. イスタンブールのメフメッドⅡ世アーカイブにあるドラゴン騎士団の関連図書目録にロッシの名前と著作を書き込んだのはドラキュラか?だとして何の目的でか?