ヘイスティングス大尉

 ああ、「名探偵ポワロ」に出てくる人たちみたいにお洒落してみたいなぁ。
 いやね、Yahoo!動画は「ポワロ」も「ホームズ」も「心理探偵フィッツ」も有料化されちゃったので観てなかったんですが、GyaOの方で「ポワロ」と「ホームズ」が一話ずつ載ってるんです。「ポワロ」は今のところ「誘拐された総理大臣」だけ。追加されていって欲しいですね*1
 で、この「ポワロ」の1930年代ファッションに惹かれるんです。ミーハーですから、私。
 この「誘拐された総理大臣」では、政府の高官サー・バーナード・ドッジはホンブルクとチェスターフィールド、ダークスーツ、暗い臙脂に薄いストライプの入ったタイ、黒靴、それに細い蝙蝠傘を携えるという、絵に描いたような英国紳士スタイル。ダニエルズ中佐も基本は同じような感じ。
 ジャップ警部は黒っぽいソフト帽をテレッと少しだらしなくかぶり、ベージュのおそらくはギャバジン地のコートをデレッと羽織り、ダークスーツ三つ揃え、赤っぽいタイ。カッターシャツの襟が少し撚れていたりするのがそれっぽい。スーツを脱ぐとカッターシャツ*2の腕にアームバンドをしているところも、仕立てのシャツではなく既製品を着ているという現れか。知的労働者階級というところでしょうか。他人(ダニエルズ中佐)の家の中でも脱帽しないのは、警察官として敢えて「あなたが権威者であろうと、私はその権威を無視する権限を持っています」という主張かな、それとも単に礼儀に欠ける人物という描写なのかな*3
 ポワロは黒のスーツにモーニング・ストライプのトラウザーズ、グレーに模様入りのウェイストコート、同じ模様入りのグレーのボウタイ。シャツは立ち襟で、襟と前立て以外の部分はソフト仕上げ、カフスはダブル。足もとはグレーのスパッツと一体になった黒革靴。グレーのコートはチェスターフィールド型ですが、サー・バーナードのものよりも襟の開きが大きいもの。帽子はコートよりもやや濃い目のグレーで、硬そうな素材でブリムの巻き上げがキツイので横から見るとボウラーっぽいですが、センタークリースですのでやはりホンブルクです。それにステッキ。お洒落な異邦人。
 ヘイスティングス大尉は茶系のヘリンボーンのコート(ダブルでベルトのついた、トレンチコート型)、ジャケットは目の細かいツイードの三つボタンでパッチポケットのややカントリー調か。トラウザーズは、オックスフォード・バグズ*4というほどではありませんが、心持ち太めのダボッとしたもので裾はダブル。シャツはよく見えませんが、襟はロングポイント、袖はレギュラー。チョコレート色のソフト帽はジャップ警部のものよりもクラウンがまっすぐスッと立ち上がってスマートな印象、かぶり方もきっちりしています。それと黒っぽいタイ。靴は濃茶にも見えますがやはり黒でしょうか。街中でもこのスタイルということは、今の(軍人恩給と株式投資で暮らしている?)彼にとっては探偵助手は仕事ではなく趣味の世界であるということの現れでしょうか*5
 ちなみに皆さん黒の薄い皮手袋をしてます。ハンドルを握るヘイスティングス大尉やステッキを握るポワロの手元を見るとわかりますが、それこそ爪の形がわかるほど薄く手に密着した手袋です*6


 などと観る中では、ヘイスティングス大尉みたいなお洒落をしたいですが・・・あんなスマートな着こなしは到底できません。せめてジャップ警部を見習いたいけど、それも無理か。
 そもそも変にお洒落(しかも現代の基準からは異なったお洒落)をしようと頑張ると、逆にまた変質者みたいに見えてしまいますね。本当に可愛そうな痴漢顔の私。
 まあ、何歳になっても夢というか憧れというか、そういうのを持つのは悪いことじゃないでしょ(ひらきなおり)。


 この話の中ではポワロが仕立屋フィングラー氏の店でスーツを仕立てる場面が出てくるのですが、去年より太った・太っていないということで、ポワロは「巻尺がおかしい」と主張しますが、最後にはポワロがフィングラー氏に凹まされます。愉快。いやぁ、体型の変化は紳士方共通の悩みですなぁ。

*1:今日見たら「全4話」という表示が。4話分だけですか・・・無料だから贅沢いっちゃいけませんね。

*2:冒頭の駅での警備の場面のみ、カラーがラウンドになった少々お洒落なシャツです。

*3:ポワロのオフィスではきちんと帽子を脱いでますから、おそらく前者でしょう。

*4:Oxford bags:1920年代頃からオックスフォードの学生に好まれた、幅広のトラウザーズ。詳細はhttp://en.wikipedia.org/wiki/Oxford_bags参照。辞書で"bag"をひくと「たるみ」という意味があります。

*5:本来(少なくとも1930年代の英国的な価値観の下では)、茶のコートやスーツは都会での仕事着ではありません。ポール・ギアーズ(出石尚三訳)『英国紳士はお洒落だ』(飛鳥新社・1992年)54頁・55頁参照。これは、紳士の着こなしはヴィクトリア朝で形成され、1930年代、のちのウインザー公の着こなしによって完成されたとする、「1930年代原理主義」的な本ですのでご注意を。

*6:ポール・ギアーズ(出石尚三訳)『英国紳士はお洒落だ』(飛鳥新社・1992年)173頁参照。