チャーチルの将軍達

 

Churchill's Generals (Cassell Military Paperbacks)

Churchill's Generals (Cassell Military Paperbacks)

 John Keegan, "Churchill's Generals"
連合国側の将軍達の葛藤を描いた書物としては、今や歴史修正主義の教祖みたいになってしまったデイヴィッド・アーヴィングの「将軍達の戦い」なんてのがありました。アーヴィングのはヨーロッパ戦域に焦点を当てたものです。それに「バトル・オブ・ブリテン」で頑張ったサー・ヒュー・ダウディング大将が、ウィンストン・チャーチル氏のおぼえ目出度からざるをもってその後冷遇された話なんかも有名ですね。このキーガン編の本(1991年初版)は、チャーチルと、連合王国陸軍の主に元帥クラスの将帥達(アフリカ・アジア戦域を含む)の関係を論じていて興味深い本です。
 例えばウェーヴェルなんて、正直「ロンメルにコンテンパンにやられた人」という認識しかなかったんですが、寡黙な文人肌の人で、チャーチルとそりが合わず、不利な状況で責任を押し付けられていた人なのかな、なんてことがわかったりします。この人、1943年からインド総督を務めるんですが、そこでもチャーチルの守旧的な考えに反してかなりリベラルだったようで。インド独立というとマウントバッテン卿しか思い浮かびませんが、独立直前までの総督はウェーヴェルだったんですよね。
 日本との関係では、インパールで1944年、牟田口廉也中将の第15軍の攻勢に対峙したスリム中将(後に元帥)が、当初様々な要因から低い評価しか得られなかったなどの話が興味深いです。
 他にも同じくビルマで活躍したウィンゲート少将の評価を巡る問題とか、なかなか面白い本です。20070318加筆:言われてみればイギリスって第二次世界大戦の頃から今に至るまで特殊部隊好きですね。チャーチルのヒロイックな戦争観とその名残というだけではないでしょうけど。
 20070318加筆:それとパーシヴァル中将の降伏によるマレー・シンガポール失陥は英国にとってはやはり衝撃的な出来事だったみたいですね。この敗戦がパーシヴァルの作戦レベルでの指揮の稚拙さによるものなのか、英国の戦略レベルでの準備不足によるものなのか、この本でも議論されています。


 20070318加筆:なお、表題は「チャーチルの将軍達」ですが、ブライアン・ホロックスのような「モンティの将軍達」も入っています。このホロックスというのも面白い経歴の人なんです。第一次世界大戦で負傷して捕虜になって収容所で手荒く扱われたり。ロシア革命後の白軍支援のためのシベリア出兵に参加してまた捕虜になって抑留生活を送ったり(死にそうにまでなった)。しかも、第二次世界大戦で活躍した割には中将どまりで退役してるので何故かと思って読んだら、負傷休養してる期間が結構長くて、しかも戦争末期からその後遺症的な体調不良に悩まされての退役なんですね。その割には戦後はタレント・戦記作家・実業家として成功したようで、長生きしてます。ホロックスは入っているけどデンプシーが入っていないのは、デンプシーの人生が面白くないから?