娯楽本読書メモ

 昨年9月のメモ(id:makinohashira:20080922#p3)以来、久々にまとめておこう。
 洋書以外は相変わらずブックオフの100円コーナーに頼っている。


この冬に読んだ本:

 あの『太陽がいっぱいリプリー)』のリプリーを主人公にしたシリーズで、いずれも河出文庫。『アメリカの友人』に先だって『贋作』があって、特に『死者と踊る』の方はその『贋作』での物語と繋がっているので、そちら先に読んでおくべきだった。けど以前買ったはずが押し入れの中から発掘できず。
 妙な才能に恵まれたリプリー氏は、数々の悪事をはたらきながらも露見に至らず、お金持ちのお嬢様エロイーズと結婚して優雅に暮らしている。そこにディッキー・グリーンリーフ失踪(『太陽がいっぱい』)やダーワット事件(『贋作』)の真相を嗅ぎつけたらしいプリッチャード夫妻が現れて、リプリー達に脅威を与える。リプリー・シリーズの最終作だし、これまでの悪事は露見してしまうのか?ということで、ハラハラしながら読める。結末は肩すかし的な感じだがが、それなりの余韻はある・・・かな?
 『アメリカの友人』の方は、『贋作』と『死者と踊る』の間*1で、リプリーの位置づけが今ひとつはっきりしない、とらえどころのない作品。ヴィム・ヴェンダースの映画があるらしい。

 どちらも結末が重苦しい。人は自分の人生に向かい合って決着をつけなければならないときがある、ということなのだろう。確かに、『激怒する』の方は、法が機能しない局面にまで至って、「ああするしかないか」と納得できそうな気がする。しかし、後者『重罪裁判所』の方は、法による正義の貫徹は未だ十分可能だったはずで、悲劇の遠因となるメグレの判断には(人手不足だった・連絡の手段が限られてた等々弁解の余地はあるだろうが)疑問を感じざるをえない。むろん、悲劇だからこそドラマであり、ドラマだからこそ一編の小説として成り立つのだが。
 その『重罪裁判所』は、洋書屋の半額セールで買ったPenguin Red Classicsの1冊。表紙には男が男を射殺しているシーンが描かれているが、当初提示される事件は、額縁職人の男が金品目当てに叔母と彼女が預かっていた幼児を殺害したというもの。読み進めると、物語の最後に表紙の意味がわかる。

  • コリン・デクスター『消えた装身具』

 モース警部シリーズの第9作。これで短編集を除けば全部読んだことになるかな。『悔恨の日』は涙が出たな。あれ?『謎まで三マイル』って読んだっけ?
 デクスターらしく、様々な証拠と容疑者相互の証言内容を検討していくと、誰と誰が共犯者なのかの組み合わせが絞られて説明は一つ・・・なのだろうけど、本当に他の可能性がないのか疑問が残る。そもそも、最初から容疑者の範囲を絞りすぎのような気がするし。何かこう、スッキリしそうでモヤッと。

 ベルリンの壁崩壊前の東西の外交が絡んだ謀略に巻き込まれるマキシム少佐。荒唐無稽とまでは言わないけど、舞台設定や特に犯人グループの行動原理の説明に無理がある。『闇の護衛』『マキシム少佐の指揮』に続くマキシム少佐シリーズ3作目らしいけど、前2作を遡って読もうという気にまではならない。


読みかけの本:

 ヴィクトリア朝末期のロンドンを舞台に叩き上げのブラッグ部長刑事と貴族出身のモートン巡査というあり得ないコンビが活躍するシリーズで、『ジョンブルの誇り』・『下院議員の死』に続く3作目。こちらのシリーズは、順番に100円コーナーで仕入れて読んできた。第1作では「シティ」のあり様、第2作では女権拡張が背景になっていたが、本作では労働運動や対独関係が絡んでくる気配で面白そう。しかし、4分の1ほど読んだところで気分が乗らなくなりお休み中。

 以前読んだ『千尋の闇』が面白かったので、『重罪裁判所のメグレ』と同じくセールで買ってみた。ゴダードは比較的多作らしく、その中から2006年出版の比較的新しいものを何となくで選んだ。
 1950年代に、ある実験のためにスコットランドの古城に集められた15人のRAF隊員。50年後にメンバーの一人が同じ古城での3日間の同窓会(reunion)を企画する。集合途上の電車内から一人が失踪し後に線路脇で死体となって発見され、さらに二人が車で川に転落して一人が死亡する。警察はメンバーの一人に殺人の嫌疑をかけるが・・・。というところで全体の3分の1。裏表紙の紹介を見ると、どうも昔の実験というのに何やら裏がありそう。既読部分でも、昔実験の助手をやっていた研究者と彼の現在の弟子の女性が、怪しげな行動をとっていたり、最初に死んだ一人が気になる言葉を遺していたり。
 ということで、続きを読みたいけど、歳のせいか登場人物がゴチャゴチャになってしまい、表を作って整理中。今のところ、問題となる登場人物は、元の15人(ただし内4人は物語が始まる前に既に死亡し1人はオーストラリアで寝たきり状態)と、実験を企画した教授(これも故人)、昔の実験助手、彼の弟子の女性、同窓会企画者の家の家政婦、実験時に雇われていた近在の男、それに警察関係者で、水滸伝状態とまではいかない人数なのだが、元の15人にはそれぞれ渾名があって、普段はそれで呼び合うので厄介なのだ。

Never Go Back

Never Go Back


 あとは、仕事に関係する本で、普通に読んでも面白い本が1冊。


買ったけど手をつけてない本:

  • 宮腰忠『高校数学+α 基礎と論理の物語』(共立出版):挫折するとわかっていても、時々数学やり直し熱を発するので。行列やらベクトルやら微積分やら、ことごとく忘却の彼方へ去っていったけど、あれらが真にどんな意味を持っていたのかを知りたいという欲求は常に心に存在する。著者のホームページ(http://www.h6.dion.ne.jp/~hsbook_a/index.html)があってPDFで読むこともできる。
  • フランク・マコート『アンジェラの灰(上)(下)』(新潮文庫):昔原書の題名を見た時にホロコースト関係だと思いこんでいたら、アイルランドの話だった。続編『アンジェラの祈り』も出ているらしい。何となく、元気な時に読むべきかなと思っている。
  • ヘニング・マンケル『目くらましの道(上)(下)』(創元推理文庫):ロマン・ポリシェ。クルト・ヴァランダー警部シリーズの第5作目。第1作『殺人者の顔』、第2作『リガの犬たち』を読んで、第3作『白い雌ライオン』と第4作『笑う男』を未入手のため積んだままにしてある。邦訳は2007年だけど原書は1995年出版。
  • 森謙二『墓と葬送の社会史』(講談社現代新書):これは買ったというより押し入れから(ハイスミスの『贋作』を探していた際に)発掘したもので、15年も前の本。フィリップ・アリエス『死と歴史』とか梅原猛『日本人の「あの世」観』などと一緒に買った覚えがある。最後の梅原の他はちゃんと読み通していない。
  • ジョルジュ・シムノン『三文酒場』『メグレ夫人と公園の女(メグレ夫人の友人)』:いずれも『重罪裁判所のメグレ』と同じPenguin Red Classicsシリーズで。ゴダードが終わったら読むつもり。
  • ロバート・マッシー Robert Massie『ピョートル大帝 Peter the Great』:洋書屋のセールで、表紙のマクシミリアン・シェル(1986年にアメリカでテレビ映画化されているらしい)に惹かれて買ってみた、1980年初版の古い本。900ページほどの小型のペーパーバックに文字がギッシリ詰まっている点が魅力的・・・でも読み通すのは難しいだろうなぁ。


 その他、押し入れの中に未読本多数。新しく買う前に読まないと。反省。

*1:アメリカの』と『死者と踊る』の間にさらに『リプリーを真似た少年』というのがあるらしい。