ドイツが第二次世界大戦に勝利した世界

 他に読んだ本:
 マリ・デイヴィス「英国占領」(上)(下):レイ・デイトンの「SS-GB」と同じく、ドイツ軍が1940年に英国上陸に成功し英国を占領していたら、という仮想世界のお話。「SS-GB」はスコットランド・ヤードの警視が主人公でした。この「英国占領」は占領軍に通訳として徴用された男が主人公で、レジスタンスの目線で占領下の英国が描かれます。レジスタンス内部の裏切り者は誰か・・・ってこれも読者には丸わかり過ぎですが、その先に更に捻りがあって、ラストは驚愕、あまりに荒唐無稽という。入り口でボディーチェックするでしょ、絶対。
 「SS-GB」に関係する過去の日記は
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このときukyarapiさんに教えていただいた、J・ロバート・ジェインズ「万華鏡の迷宮」も読みたいな。
 Robert Massie,"Castles of Steel":第一次世界大戦中の英国海軍(とドイツ海軍)の作戦指導に関する歴史ドキュメンタリーで、同著者の"Dreadnought"の続編に当たると思われます。120頁辺りまで読んで挫折中。チャーチルとかフィッシャーとかジェリコーとかビーティーとか、ゲーベンとかガリポリとかユトラントとか。


 観た映画:
 「謀議(Conspiracy)」これは以前TSUTAYAで借りて観たもので、YouTubeに全部あがっていたのを見つけて見直してみました。ヴァンゼー会議の様子をいわゆる「議事録」から想像して組み立てたドラマです。ケネス・ブラナーはすぐわかるとして、ああ、「バーナビー警部」*1の田舎演劇の回に出ていたホモの本屋のオッサン(ニコラス・ウッドソン(ニック・ウッドソン):ここではホフマンSS中将役)とか、ホース・ウイスパーの回に出ていた異様に太った医者(イアン・マクニース:ここでは党官房のクロプファー局長役)とか、知った顔が出演してます。字幕無しだと半分くらいしか理解できません。お酒と料理に囲まれた優雅な雰囲気の中で、どす黒い内容が非常に事務的・法技術的な観点から議論されていきます。この映画は、そういうことができる人間の怖さを表したかったんでしょう。映画の中でも描かれますが、会議の参加者15人の過半が法学の学位や弁護士資格を持っている人たちだったという点がもポイントです。そんな中で、いわゆるニュルンベルク法の立案者であるシュトゥッカート博士が法解釈の観点(あくまで現行法を前提とした解釈論の観点)からハイドリヒのやり方に抵抗し、総統官房ランメルスの代理であるクリツィンガー博士がそれを支援する姿、それを巧みにかわして望みの結論を手に入れようとするハイドリヒとアイヒマンという対立軸がドラマの本筋でしょう*2
 で、YouTubeの繋がりで、ロバート・ハリスの小説をテレビ映画化したという「ファーザーランド(Fatherland)」も。ここでは戦争に勝った1960年代のドイツが舞台。イギリスには傀儡政権、ロシアとは未だに交戦中*3。で、日本との戦争に勝ったアメリカとは冷戦状態にあり、雪解けが模索されているところ。アメリカ大統領ジョセフ・ケネディ・シニアの訪独を控え、ドイツ国内がアメリカのメディアに解放されます。そんな折、ベルリン郊外の湖でナチ高官ヨゼフ・ビューラーの他殺体が発見され、刑事警察のクサヴィアー・マルヒ(ザビエル・マーチ)が捜査に当たりますが、この事件にはゲシュタポの影が。他方でアメリカ人ジャーナリストのシャーロット・マグワイヤは謎の老人(実は元外務次官のマルティン・ルター)の導きでナチ高官ヴィルヘルム・シュトゥッカートの元を訪れるものの、シュトゥッカートは殺害されています。シュトゥッカートの事件を通じて知り合ったマルヒとシャーロットは情報を交換しながら捜査を進めますが、ルターとの接触や刑事警察の資料から、1942年にヴァンゼーであった会議の出席者が相次いで不可解な死を遂げていることがわかります。ドイツ政府の説明では、ユダヤ人はドイツ国内から排除され、東方に「移住」させられて暮らしているはずですが、ルターが愛人に託して隠し持たせていた資料からは、恐るべき真実が・・・
 ということですが、大規模殺戮を「移住」と偽装して長年隠し続けられるわけないでしょうし、「移住」させられて連絡もできないという状況で、アメリカがドイツと関係改善に乗り出すはずがないと思うのですが。硬いことを言うと小説が成り立たなくなりますけど、ちょっとねぇ。
 そういえば、ノルマンディーで連合軍が敗退するというのは、昔「Dデイの惨劇」でしたか、読んだ覚えがあります。この本はどこぞに眠っていることでしょう。

*1:全然関係ないけど、バーナビー警部のシリーズ「ミッドサマー・マーダーズ」のミッドサマーって、シェークスピアの「真夏の夜の夢」の「Midsummer」じゃなくて、イギリス中部のどこにでもある田舎ってニュアンスの「Midsomer」なのですね。今まで知らなかった。

*2:クリツィンガー博士は、一説にはヴァンゼー会議の内容に絶望し会議後に辞職を申し出たけれども慰留されて果たせなかったとも言われているようです。

*3:ドイツ勝利のきっかけは、映画では、ノルマンディー上陸作戦が失敗したこと。小説は読んでいないので、英語のWikihttp://en.wikipedia.org/wiki/Fatherland_(novel))に頼ると、小説では1.1942年に東部戦線でコーカサスの油田地帯を攻略し、スターリンウラル山脈東方に追いやったこと、2.エニグマ暗号が漏洩しているのを察知してそれを逆手にとって、英国の海上封鎖を完成させ1944年に屈服させたこと、3.1946年にV-3大陸間弾道ミサイルをニューヨーク上空で炸裂させ、この示威行動によりアメリカとの間に講和条約を結んだこと、だそうです。