黄色い犬

シムノン「男の首・黄色い犬」の「黄色い犬」を読み始めました。こちらも証拠・証言に基づいて論理的に謎を解くという感じではなく、心理劇のようです。これはこれで非常に面白いですね。目暮警部もといメグレ警部はぶっきらぼうだし、変に説明的な台詞はないので、言いかけ・ほのめかしや表情の描写から、裡にある意味を読み解いていかなくちゃなりません。非常に饒舌な登場人物も出てきますが、その多くの言葉の行間を読まなくてはなりません。とするとこれはたぶん翻訳では十分に味わい尽くせないんですよね。私はフランス語はまるっきり解らないので、翻訳に頼るしかないのですが、少し悔しいです。
旅行でパリに行った時、早朝に街を散歩してて感じたんですが、フランス(あるいはパリ)って人を拒む雰囲気というのが強いような気がします。建物が並んでいて、その中では人が暮らしているのでしょうが、その空気が全く外に伝わってこない。収集車がゴミを集めてまわっている横を通り過ぎても、生活の匂いが感じられない。不思議な感覚です。短期滞在の旅行者だからというのが大きいですが、イギリスやドイツでは感じられなかった雰囲気でした。非人間的だというんじゃなしに、深さと暗さを感じるんです。
だから、フランスでこういう心裡に焦点を当てた推理小説が書かれるというのは、何となく必然であると私には思えるんです。