貴婦人として死す

 カーター・ディクスン(ジョン・ディクスン・カー)「貴婦人として死す」
 
 アマゾンでは表紙の絵が出てこないので、久々に自分で撮ってみました。・・・歪んでますね。
 これを読むのは何度目でしょう。もうトリックも犯人も頭に刷り込まれています。サー・ヘンリー・メリヴェールの車椅子でのドタバタにも笑えなくなっています。それでも読んでみたくなる。説明できない魅力がある作品。
 本格推理モノとしても十二分に面白いと思うんですよ。でも厳しい目で見ればアラもあります。トリックを構成する諸要素の大半は、カーの常として「仄めかし」程度に読者に提示されるだけです。あまつさえ、重要な一つ*1がサー・ヘンリーにより隠蔽されてしまうのです。推理から離れて物語的にはアリでしょうけど・・・。犯人に関して言えば、「その人物以外の者には出来なかった」という点が(読者に与えられた情報からは)十分には立証できていないような気がします。
 加えて、カー流の「正義の裁き」の妥当性を論じだしたらキリがありませんし。
 それでも、ほの暗い「妖婦と男達の物語」として、重苦しい「戦争と人々の物語」として、特に私のような中年の域に達した男性読者の感性に訴えるところは大なのではないでしょうか。・・・ちょっと大げさな物言い、すんません。
 基本的な設定も、変な言い方ですが「二時間ドラマ的」で、ある意味わかり易いですし。そういえば、年配の学者と歳の離れた妻というのは、後年の作品でも繰り返されますね*2通俗的でカー好み、そして私好み。
 医師の手記の形をとっていることで、アガサ・クリスティーの例の作品を読者(特に「ミステリ中級」?読者)に意識させるのも、カーの趣向なのでしょうね。

*1:最後の最後に棄てられてしまう薬莢と水着ではなく、それ以前に問題になるある一つです。

*2:当初、具体的な作品名を書いていましたが、ネタバレになるので削除。