小さな世界と交換教授

 12月の記事(id:makinohashira:20071222)で書いたデイヴィッド・ロッジの"Small World"『小さな世界』を無事読了した旨は、その記事に追記しておきました。イギリス中部の冴えない街ラミッジ(架空の街でモデルはバーミンガムのようです)の大学で開かれた英文学・英語学の学会で、若いアイルランド人研究者パースは謎の美女アンジェリカに出会い、彼女(大学に所属しておらず連絡先不明)に会うために世界中の学会を飛び回る、というのがメインストーリー。それと同時進行で、パースがラミッジで知り合った米国人教授モリス・ザップと英国人教授フィリップ・スワローを中心とする、学界の一癖も二癖もある人たちの様々な物語が互いに接点をもち伏線となりながら紡がれていきます。特に第2章以降、あちこち飛びまくっていた話が、最終章に向けてちゃんと収斂されていくんです。その辺はちょっと技巧的に過ぎるような感じもしますが、退屈させずに読み通させてくれます。
 様々な物語のキーになる重要人物は、実はアンジェリカではなく(ザップ教授の元妻とスワロー教授の妻も除いて考えて)4人の女性なんですね(パースの親戚のベルナドッテを加えて5人でもいいか)。いろいろな意味で、求めるものは汝の目の前にあり、と。
 それから、最後に学界の長老キングフィッシャーが復活し更に一波乱あって大団円となるのですが、そのあたりの切欠が若きパースなわけで、とするとこれは若者の遍歴と姫君への恋と王国の救済という中世風の物語ということになり、その辺が第1章のラミッジにおける観劇ツアーの際のメイドン老嬢の説明とつながっていたり。
 非常に巧みです。


 なお、日本人学者アキラ・サカザキという登場人物の住居の描写は、トンデモ日本の典型。1984年の本だし、仕方ないか。←仕方ないのか?


 前にも触れたように、この『小さな世界』は三部作の2作目です。1作目の"Changing Places"は、ザップ教授とスワロー教授(いや、ここでは未だ教授じゃないや)のお話。でもこれ、原語で読むのちょっとしんどいな。三部作全部入りのペーパーバックが枕元で泣いてるけど。
 ということで検索すると、白水社のuブックスで翻訳が出ていました。邦題は『交換教授』だそうで。舞台は『小さな世界』から遡ること10年、学生紛争のただ中の1969年のアメリカとイギリス。ユーフォリア州立大学とラミッジ大学の教員交換協定に基づき半年間地位を交換したザップ教授とスワロー教授が、それぞれの妻についても交換状態(つまりダブル不倫ですな)になってしまったり・・・まだ途中ですが、これもなかなかいけそう。
 この『交換教授』を先に読んでおいた方が『小さな世界』はより面白かったかもしれません。