003ハイドン第92番

 諸井誠『交響曲名曲名盤100』を手がかりに交響曲を聴こう、第3回はハイドン交響曲第92番。渾名はハイドンがオックスフォードから名誉博士号を授与された際の記念に演奏されたことから「オックスフォード」。元々はフランスのドーニ伯爵からの依頼に基づく3曲のうちの1曲だそうで。『名曲名盤100』では、この第92番までを(フランスつながりということで)パリ交響曲群としていますが、少なくとも今はこうした説明はあまりしないようです。
 前回の第83番との間には、巨匠達が好んで演奏した第88番「V字」なんてのもありますね。フルトヴェングラークナッパーツブッシュ等のファンの方にも馴染みが深いでしょう。でも『名曲名盤100』では残念ながらオミット。
 第92番について『名曲名盤100』では、マリナー・アカデミー室内O、セル/クリーブランドドラティベームウィーン・フィルサヴァリッシュ/ウィーンSO、マゼール/ベルリン放送SOが挙げられています。セルの演奏は聴いてみたいですね。手持ちは以下のとおり。

  1. ベームウィーン・フィル(DG・1972年録音):2枚組で第88番から第92番までと協奏交響曲入り
  2. ブリュッヘン/18世紀O(Philips・1995年録音):13枚組のセット

これも2枚だけ。日本ではハイドンはいまいち人気がないみたいですが、私のCD棚でも冷遇されてます。しかも、これまで熱心に聴いていたわけでもありません。今回1週間に1曲ずつ聴き直してみてその魅力に目覚めつつあるというのが正直なところです。ハイドンさん、ごめんなさい。
 この曲、「雌鶏」とか「驚愕」とか「時計」などのように、分かり易い特徴があるわけではありません。BGM的に聞いているとサラリと流れていってそれでお仕舞い。でも、じっくり聴くと面白い。例えば第1楽章。『名曲名盤100』でも、第1楽章の主部について「『曲の途中から始まる』ような印象」と紹介されていますね。序奏の後、主部のアレグロに入ると最初は弦の弱奏で、暫くしてから強奏で本当の主題提示っぽい部分になります。でも、良く聴くと、強奏の部分は弱奏で現れた要素を巧く展開して作られてる。ってことは弱奏の部分が真の第1主題なのか。という感じ。展開部の「対位法的処理」は、ここでJ.S.バッハなみに高度に技巧的になったら交響曲の展開部としては一寸イヤミかもしれないけど、そこまではしない絶妙のバランス。イイなぁ、これ。スコアがあれば眺めながら構造のお勉強をするのにもってこいの曲かもしれません。
 さて、前回第83番のバルビローリ卿に続き、今回聴き込んだのも私の偏愛指揮者の1人、カール・ベーム氏の演奏。ピリオド系なんのその、大編成でトロッと濃厚。トロッと言っても、決して鈍いわけではありません。堂々としていて且つ優美で繊細。第1楽章展開部の声部の絡み合いなんか、涙が出るほど美しい。アダージョの静けさ、メヌエット=トリオの柔らかさ、そして終楽章プレストの決してせせこましくならない躍動感。何と言ったらよいのでしょう、変な喩えですが、ヌラヌラと心地よく書ける太字の万年筆のような。メヌエットとか終楽章には些か田舎臭さがあって、ダサく感じられる向きもあるかもしれません。「むしろそこがベームらしくて良い」なんて感じられるのは、まさに偏愛のゆえなのでしょうねぇ・・・
 ほぼ同じ時期に同じレーベル(DG)でオイゲン・ヨッフムがロンドン交響曲群を録音していたのとの兼ね合いでしょうか、ベームは第88番から第92番しか正規の録音を残していません。第104番辺りがあればいいのになぁ。

ハイドン:交響曲第91番&第92番&協奏交響曲

ハイドン:交響曲第91番&第92番&協奏交響曲

 ↑このCDは1枚もので、88〜90番は別になっています。