最後のコンサート
本屋さんで新書コーナーを見ていたら、以前クラシックカメラブームの時に田中長徳氏とつるんで本を出していた出版社のオッサンがお手軽「クラシック歴史系」本を何冊か出してるのを目にしました。自分の出版社で出してるクラシック系の翻訳書や雑誌なんかを元ネタにして、非マニア向けにお気楽極楽にまとめてみました、という感じ。ああいうのが立派な新書として出版される世の中なんですな。ま、私なんぞが何か言える立場じゃござんせん。
さて、その中に『巨匠たちのラストコンサート』なんてのがありました。ぺらぺらと見てみると、例のトスカニーニ最後のコンサート(というかラジオ放送のための公開演奏)で「タンホイザー序曲」の演奏は本当に一時ストップしたのか、とかね。
今日書くのはそんな大げさな話じゃありません。諸井誠『交響曲名曲名盤100』を読みながら100曲聴こうなどという企画は未だ諦めておりませんで、暇をみてまずは所有CDのリストを作ってます。そうすると、持ってるはずのCDでどうしても見つからないものが何枚かありまして。でCD箱ひっくり返して探していると、企画とは関係ないけど懐かしいCDが見つかるもんです。その中の1枚が、むか〜し昔Intaglioというイタリアかどこかの怪しげなメーカーが出していた、サー・ジョン・バルビローリ最後の録音されたコンサート(1970年7月24日)のCD。
これ、最近(といっても5年以上前)BBC LEGENDSから再発されたようですね。
サー・ジョンの最期の日々は、Michael Kennedy "Barbirolli"によると、以下のような感じです。既に1967年頃から、循環器系の問題でリハーサルの途中などに失神することがあったようですが・・・
1970年(未完成のメモ=20081028修正)
- 4月5日:シュトゥットガルト・・・マーラー2番=最後のマーラー演奏(「20世紀の大指揮者」シリーズでCD化されている)。
- 4月10日?〜12日:ミュンヘン/バイエルン放送交響楽団・・・ブラームス2番+ヴォーン=ウィリアムズ6番+ウォルトン「パルティータ」その他(前二者はOrfeoレーベルでCD化されている)。
- 4月12日晩:ミュンヘンで胸の痛みにおそわれ意識を失い入院。ハンブルクでのコンサートをキャンセル。
- 4月18日:マンチェスターで心臓専門医の診察を受ける。動脈硬化、心臓大動脈弁の硬化との診断。ミュンヘンでの胸の痛みは狭心症とされる。
- 4月中旬:帰国後、ライチェスター、ロンドン、マンチェスターでのハレ管のコンサートに向けてリハーサル・・・エルガー「南国にて」、ブルックナー8番を含む。
- 5月3日:マンチェスター/ハレ管・・・シベリウス6番+ドビュッシー「マ・メール・ロワ」+ストラヴィンスキー「火の鳥」=マンチェスターでの最後のコンサート。
- 5月上旬:ダブリン・・・エルガー「ゲロンティウスの夢」+ヴェルディ「レクイエム」
- 5月20日:ロンドン/ロイヤル・フィルハーモニック・ソサイエティ・コンサート・・・エルガー「南国にて」、ブルックナー8番=ロンドンでの最後のコンサート。
- 5月下旬:ビショップスゲート・インスティテュートでのニュー・フィルハーモニアとのリハーサル中に倒れ、聖バーソロミュー病院に運ばれる。ストークス・アダムズ症候群と診断される。
- 6月初旬:コペンハーゲン。
- 6月中旬:チューリヒ・・・ブラームス変ロ短調ピアノ協奏曲(独奏:ゲザ・アンダ)。
- 7月初旬:ローマ・・・セミラーミデ、火の鳥、ベートーヴェン7番。7月1日のリハーサルの合間に宿所のイギリス大使館で倒れて医師の診察を受けている。
- 7月14日:マンチェスターで心臓専門医の診察を受ける。演奏活動を止めなければすぐにでも落命するおそれがあると警告される。
- 7月15日〜17日:キングズウェイ・ホールでの録音セッション/ハレ管弦楽団・・・ディーリアス「アパラチア」「ブリッグの定期市」これが最後の公式録音。このセッションの最中の16日にも短時間だが意識を失っている。
- 7月23日(木):イーリー(Ely)でコンサート/ヴォーン=ウィリアムズとエルガーの交響曲(詳細不明)
- 7月24日(金):キングズ・リン・フェスティバル(聖ニコラス教会)/ハレ管弦楽団・・・エルガー交響曲第1番、連作歌曲集「海の絵」(独唱:Kerstin Meyer)、「序奏とアレグロ」。最後の録音されたコンサート。リハーサル前に軽い発作で倒れている。
- 7月25日(土):キングズ・リン・フェスティバル(同上)/ハレ管弦楽団・・・最後の曲はベートーヴェン交響曲第7番。
- 7月26日(日):ハンツワース・ミューズの自宅で静養。
- 7月27日(月):日本公演リハーサル(ビショップスゲート・インスティテュート)/ニュー・フィルハーモニア・・・マーラー交響曲第1番、「亡き子をしのぶ歌」、「さすらう若人の歌」(独唱:ジャネット・ベイカー)。
- 7月28日(火):日本公演リハーサル(同上)/ニュー・フィルハーモニア・・・ブリテン鎮魂交響曲、ベートーヴェン交響曲第3番。オーケストラへの最後の言葉は「明日はシベリウスだね。We'll take the Sibelius tomorrow.」
- 7月29日(水):ハンツワース・ミューズの自宅で未明に心臓発作に襲われ、搬送先の病院で死亡確認。
- 7月31日(金):火葬。遺灰はKensal Greenの墓所に埋葬。