006ハイドン第101番

 うへっ 間が空いちまった。1週間に1曲のペースでいきたかったんだけど。
 諸井誠『交響曲名曲名盤100』を手がかりに交響曲を聴こう。6曲目は第101番「時計」です。手持ちのCDは以下のとおり。

  1. トスカニーニ/NBC(RCA・1946年録音):第99番及び協奏交響曲カップリング
  2. ビーチャム/ロイヤル・フィル(EMI・1958-59年録音):第99番から第104番までの2枚組セット
  3. ヨッフムロンドン・フィル(DG・1971年録音):5枚組のロンドン交響曲群+α
  4. ブリュッヘン/18世紀O(Philips・1987年録音):13枚組のセット

結構好きな曲なのですが、多くはありませんね。
 この曲、「時計」という愛称のとおり、第2楽章アンダンテの「トッ・テッ・トッ・テッ・トッ・テッ・トッ・テッ」という規則正しい振り子時計のようなリズムが面白い曲です。しかも変奏曲形式なので、このリズムが延々と続きます。弦楽部と木管から始まり、ト短調に転調して金管も加わった全合奏、元の調に戻って木管と第1バイオリンだけの静かな部分になり、これが97小節目で全休止してしまいます。居眠りしてしまった人は、ここで起きて拍手をしてしまうかも。でも、まだ続きがあるんですよ。
 このチク・タクのリズム、トスカニーニの演奏では歯切れが良くはっきりしていて、しかも硬くはならずにのんびりした雰囲気で、非常に気持ちよいです。トスカニーニにとってこの第101番は、キャリアの節目に演奏するような重要なレパートリーだったようです*1。そうした知識は抜きにしても、各声部の呼吸がピッタリ合っていて素晴らしい演奏です。


 さて、『交響曲名曲名盤100』では、第3楽章を例にハイドンの「遊び」の面白さに触れています。トリオの弦楽部の伴奏に乗ってフルートがソロを奏でる部分。八分音符で上昇していって、天辺(86小節)でE音をスタッカート付きの四分音符を3つ、念を押すように吹くのに、弦楽部はニ長調の主和音を維持するだけ。繰り返しの部分(97小節以下)になってやっと弦楽部もフルートに応じて属和音を奏でます。ここを諸井誠先生は次のように解説します。

弦楽器の奴らときたら、居眠りをしているのだろうか? ハイドンは田舎楽団風なおかしさを、反復部で正しく属和音に進行することで強調している。

ハイドンの意図がそういうものだったか否か、私にはよくわかりません*2。でも、確かに工夫がしてあるというか、遊び心があるというか。上の方で挙げた第2楽章の全休止なんかも、そういう遊び心なのかな。
 もちろん、全体としては非常に真面目に出来ていて、第4楽章なんか結構難しく感じます。でも、その真面目さも含めて楽しいんですよね、ハイドンの曲って。


 ちなみに、トリオの箇所は、ロンドンで作られた筆者譜とそれに基づく出版譜では、最初と繰り返しの両方とも属和音になっているそうです。手持ちのCDのうち、ビーチャム盤はこれによっています。
 が、1960年代のロビンス・ランドン編のウニヴェルザール(ユニバーサル)社の全集以降、自筆譜を元に最初は主和音、繰り返しで属和音ということになっているようです。1946年録音のトスカニーニ盤もこちら。1930年代のエルンスト・プレトリウスによる自筆譜研究を元にしたオイレンブルク社のスコアあたりで既にこちらになっていたのでしょうか。


 『名曲名盤100』では、そのトスカニーニ盤に触れつつ、推薦盤はステレオ基準なので、バーンスタイン/NYPが筆頭。他に、フォン・カラヤンベルリン・フィル(EMI)、ドラティヨッフムクレンペラー、ビーチャム、モントゥー/ウィーン・フィルカール・リヒターベルリン・フィルが並びます。

*1:諸石幸生『トスカニーニ――その生涯と芸術』(音楽之友社・1989年)105〜107頁。トスカニーニディスコグラフィに現れるハイドン交響曲は、この第101番の他に、第31番、第88番、第92番、第94番、第98番、第99番、第104番、それに協奏交響曲ということになるようです。

*2:トスカニーニ盤=1992年発売のBMG国内版のライナーを書いているモーティマー・フランクも諸井先生と同じように解しているので、音楽の世界では一般的な理解なのでしょう。