007ハイドン第103番

 諸井誠『交響曲名曲名盤100』を手がかりに交響曲を聴こう。「パパ」ハイドンの7曲目は第103番「太鼓連打 mit dem Paukenwirbel」・・・第94番の「ティンパニずどん」に対して「ティンパニドロドロ」でしょうか。序奏部の冒頭にティンパニのロールが入ります。自筆譜には強弱記号などはないようで、ここの表情付けは指揮者の腕の見せ所なのかな。『交響曲名曲名盤100』もそこに着目しています。ヴァリエーションとしては、弱奏のままか*1、強奏からディミヌエンド*2、弱奏からクレッシェンドしてディミヌエンド*3、でしょう*4
 ともあれ、私はこの曲が一寸苦手です。じっくり聴くと良い曲なんだなぁってのは判ります。第1楽章では、序奏部がコーダの手前で再現されたり、展開部で序奏部のパラフレーズが行われたりと、循環的な形式がとられます。第2楽章は短調長調の2つの主題の変奏。主題はコミカルで楽しいし、第2主題の変奏の際のヴァイオリン・ソロが美しいのですよ。第3楽章の田舎風の三拍子の舞曲は、特に第2楽章と釣り合いがとれていて絶妙。ホルンに導かれて始まるスピーディーな第4楽章は、領主様のキツネ狩り?・・・と聴いていくと、どうも全体の流れの中での第1楽章序奏部の落ち着きがよろしくないような気がしてきます。あの序奏部の後では、残りの部分が何となくアッケラカンとしすぎているように聞こえてしまって。
 もちろん、この第103番の短調長調の間を揺れ動くような序奏部が、オラトリオ「天地創造」の混沌の部分なんかに繋がってるのかもしれないなぁ、なんて考えると、「天地創造」大好きなだけに第103番も嫌っちゃいかんと思いなおすのでした。


 手持ちのCDは・・・ちなみに以下の並びは単純に録音年代順で、別に順位をつけようというもんじゃありません。

  1. ビーチャム/ロイヤル・フィル(EMI・1958-59年録音):第99番から第104番までの2枚組セット
  2. マルケヴィッチ/ラムルー管弦楽団Philips・1959年録音):第104番及びベートーヴェン交響曲第1番とカップリング
  3. ヨッフムロンドン・フィル(DG・1971年録音):5枚組のロンドン交響曲群+α
  4. ブリュッヘン/18世紀O(Philips・1987年録音):13枚組のセット

 トーマス・ビーチャムの柔らかだけど決めて欲しいところはちゃんと決まっている演奏は流石。ビーチャムの柔らかさの対極にあるのがイーゴル・マルケヴィッチでしょうか。トスカニーニばりに縦の線の揃った歯切れのよい演奏。教条的なインテンポではありませんし、音色に色彩感もあるのですが、多くの繰り返しを省略していることもあって、あっさり風味です。十六分音符や三十二分音符がくっきり明瞭で小気味よいのは、この曲にはピッタリかもしれません。そういう意味ではピリオド・アプローチのブリュッヘンも鋭いアクセントが非常によろしい。ビーチャムやマルケヴィッチ、そしてブリュッヘンを聴いてしまうと、ヨッフム盤は・・・何だかリズムが上滑りするところがあるし、ヴァイオリン・ソロは前のめり気味だし、と変なところが耳についてしまいます。

ハイドン:交響曲第103&104番

ハイドン:交響曲第103&104番


 ちなみに『名曲名盤100』では、ギュンター・ヘルビッヒ/ドレスデン・フィルを筆頭に、フォン・カラヤンウィーン・フィル(Decca)、マリナー、ヨッフムドラティコリン・デイヴィス/コンセルトヘボウ、バーンスタイン/NYPが挙げられています。ヨッフムしか被ってないや。

*1:交響曲名曲名盤100』によればフォン・カラヤンウィーン・フィル盤がこのタイプだそうです。私は持ってないけど。

*2:所有CDの中ではヨッフム盤。それからブリュッヘンのコーダ直前での再現部分。『交響曲名曲名盤100』によれば、これを始めたのはヘルマン・シェルヘンだとか。同書では(音楽理論家チャールズ・ローゼンを引用しつつ)これが興行主ザロモンによるピアノ五重奏編曲版に付された強弱指示を根拠とするとしていますが、全音オイレンブルク新版(ハリー・ニューストン校訂)の校訂ノートはそのような説明はしていません。校訂ノートによれば五重奏版では弦楽器はクレッシェンドからディミヌエンド、ピアノがフォルテッシモのトレモロだそうです。

*3:所有CDの中ではマルケヴィッチとビーチャム。ビーチャムの方は頂点での音量がmp〜mf程度。ブリュッヘンも序奏部冒頭ではこのクレッシェンド−ディミヌエンド。しかも長〜く伸ばす伸ばす。コーダ直前での再現部分では注2のとおり。

*4:続くファゴットと低弦はピアノで入りますから、ティンパニが強奏のまま終わるのは少々収まりが悪い。